アメリカの個人事業主の経費計上 | 経費の判断基準から節税方法までを会計士がわかりやすく解説

更新 2026.09.21 約33分で読了 米国公認会計士(CPA)が監修

「日本のクレジットカードで買った仕事用のソフト代、レシートは円建て。これ、アメリカの申告に入れていいんだろうか?」
「自宅のインターネット代、全額引いている知り合いもいるけど本当に大丈夫?」

アメリカでSole Proprietor(個人事業主)として活動し、自分で帳簿をつけて申告準備までしている方から、毎年このあたりの質問をいただきます。日本で確定申告をしていた経験があるほど、かえって迷いが増えるところでもあります。米国事業での経費判断は、領収書の有無だけでなく「事業目的があるか」「私用部分をどう切り出すか」「どの記録で説明できるか」の三点で決まってきます。

この記事では、主要な経費の条件と保存記録、Schedule C(事業所得の申告書)のどこへ集計するか、そして日米をまたぐ支出で確認すべき点を、具体的な例を交えて整理していきます。読み終えるころには、日々の支出は基本的に自分で仕分けられる状態になるかと思います。

この記事の目次

1. 個人事業の支出を経費にできるか、何を基準に判断するか?

結論として、経費になるかどうかは支払方法やカード名義ではなく「その事業にとって通常(Ordinary)かつ必要(Necessary)な支出か」で決まります。この章では、その基本要件、私用部分の切り分け、そして「その年に全額引ける支出」と「そうでない支出」の区別という、判断の土台になる三点を整理したいと思います。

1.1. 「通常かつ必要」とは実際どういう意味か?

結論からいえば、同業者なら普通に支出するもの(Ordinary)で、その事業の役に立つもの(Necessary)であれば要件を満たします。Necessaryは「なければ事業が成り立たない」という厳しい意味ではありません。適切で役に立つ、という程度の理解で十分です。

たとえばグラフィックデザイナーの方がAdobeのサブスクリプションを払う。これは同業者なら誰でも払うもので、業務に直結すると言えます。一方、同じデザイナーが「クライアントと話すきっかけになるから」と高級腕時計を買う。これは同業者が通常支出するものとは言いにくく、私的な性質が強いと見られてしまいます。

判断に迷うケースでは、次の三つを判断軸にされると良いかと思います。

  • 同業者が同じ支出をしているか(Ordinaryの目安)
  • その支出がなくても、私生活のためにいずれ買っていたか(私用性のテスト)
  • 第三者に「なぜこれが事業に必要だったか」を30秒で端的に説明できるか(説明可能性)

1.2. 私用と事業用が混ざった支出はどう扱うか?

答えは、事業用部分だけを合理的な基準で切り出して計上するのが良いです。あくまで、全額かゼロかという二択ではありません。

例えばスマートフォンの通信費が典型例だと思います。仕事の電話もするが、家族との連絡にも使う。この場合には、使用実態に基づいた割合で按分します。この按分については、「だいたい半分」と言うだけでは弱く、何らかの合理的に説明ができる根拠が必要です。たとえば通話・データ利用の明細から業務利用分を拾う、あるいは代表的な3か月分を集計して年間に当てはめる、といった方法が考えられます。

日本との違い:日本では家事関連費について「業務の遂行上必要な部分を明らかに区分できる場合」に必要経費算入が認められ、実務上は「主たる部分が業務遂行上必要か」という判定が意識されます。米国には青色申告・白色申告のような申告区分そのものがなく、帳簿の色によって認められる経費が変わる仕組みもありません。その代わり、私用兼用の支出は按分根拠の合理性と記録で判断されます。つまり制度上の区分で守られるのではなく、記録と事後的な説明の合理性が重要になるとご理解いただければ良いかと思います。

1.3. その年に全額引ける支出と、そうでない支出の違いは?

買った年に全額経費にできる支出ばかりではありません。長く使う資産の取得は、原則として耐用年数にわたって減価償却(Depreciation)する必要があります。具体例としては、パソコン、カメラ、家具、車両などです。

ただし、いくつかの特例で初年度に費用化できる場合があります。代表的なものはSection 179(一定の事業用資産を上限の範囲で即時費用化する選択)と、少額資産のDe minimis safe harbor(一定金額以下の有形資産を費用処理できる選択)です。どちらも金額上限・適用要件・選択の手続きがあり、年度によって上限額が改定されますので、「設備は買えば経費」と単純化しないことが実務上のポイントになります。

もうひとつ、時期の問題があります。現金主義(Cash Method)で記帳している場合でも、前払費用は原則として対応する期間に配分します。12月に翌年12か月分のサービス料を一括で払ったからその年の経費、とは限りません。

2. 主要な支出にはどの条件があり、何を記録してどこに計上するか?

この章では、フリーランスが実際に使う経費項目を一覧にし、それぞれの条件・保存記録・Schedule Cの計上先を対応づけておきます。「経費になるのは分かったが、申告書のどこに書けばいいのか分からない」という状態を解消するのが目的になります。

2.1. 経費項目ごとの条件と計上先の対応表

Schedule C Part IIには、あらかじめ行が用意されています。該当する行がない支出は、Part V(Other expenses)に内訳を書いてLine 48で合計し、Line 27aに転記します。

支出の種類 計上の条件 保存する記録 Schedule Cの計上先
広告・Web集客 事業の宣伝目的であること 請求書、広告アカウントの明細 Line 8(Advertising)
外注費(業務委託) 実際に役務提供があること。年$600以上の個人事業主等への支払は情報申告の検討が必要 契約書、請求書、W-9、支払記録 Line 11(Contract labor)
車両費 事業目的の走行分のみ。通勤は対象外 走行記録(日付・目的・距離) Line 9(Car and truck)/Part IV
減価償却・Section 179 事業供用開始していること。上限・要件あり 購入証憑、供用開始日、事業使用割合 Line 13(Form 4562添付)
保険料(事業用) 事業に係る賠償責任保険等。本人の健康保険は別扱い 保険証券、支払明細 Line 15(Insurance)
専門家報酬 事業に関する法務・会計サービス 請求書(業務内容の記載があるもの) Line 17(Legal and professional)
事務用品 短期に消費するもの レシート Line 18(Office expense)
事務所家賃 自宅以外の事業スペース 賃貸契約書、支払記録 Line 20b(Rent – other business property)
出張旅費 税務上の本拠地を離れた事業目的の宿泊を伴う移動 旅程、目的、面談相手、領収書 Line 24a(Travel)
事業目的の飲食 原則50%制限。贅沢・過大でないこと 日付、金額、場所、同席者、事業目的 Line 24b(Deductible meals)
通信費 事業使用分のみ。自宅の固定電話の基本料金は第1回線分が対象外 明細、按分の根拠 Line 25(Utilities)またはPart V
ソフト・SaaS 事業使用分。年払いは期間対応を確認 請求書、利用開始日 Part V → Line 27a
自宅事務所 専用かつ定期的な事業使用。主たる事業所等の要件 面積、間取り、用途の記録 Line 30(Form 8829または簡易法)

2.2. 飲食費の50%制限は、いま何が対象か?

事業目的の飲食費は、原則として支出額の50%が控除対象です。コロナ禍において一時期あった「レストラン飲食100%控除」の特例は2022年12月31日で終了しており、2023年以降の年度にそのまま当てはめてはいけません。

飲食費で記録すべきは金額だけではありません。日付・金額・場所・同席者・事業上の目的の5点です。クレジットカードの明細には店名と金額しか残らないため、誰と何のために会ったかを別途メモしておく必要があります。私たちの場合は、カード明細に月末にまとめてメモを足すやり方をおすすめしています。その場でレシート裏に書くのが理想ですが、自分が継続してできるやり方を選択されることをおすすめします。

なお、娯楽(Entertainment)費は原則として控除できません。具体例としては、ゴルフ、コンサート、スポーツ観戦のチケット代などです。食事が娯楽とセットになっている場合、請求書上で食事代が明確に区分されていなければ、その全体がEntertainment Expenseとして見做される(税務上の経費として認められない)可能性がありますので、特に金額が大きい場合には注意が必要です。

2.3. 贈答品と会費はどう扱うか?

顧客への贈答品(Gift)は、1人あたり年間 $25までが控除限度です。なお、包装代や送料など付随費用は品物の価値に加算されない範囲で別に取り扱うことができます。

諸会費については、業界団体・商工会議所などの事業関連の会費は経費になりますが、ゴルフクラブやソーシャルクラブの会費は娯楽施設の会費として控除できません。日本の感覚で「接待用のクラブ会費は経費」と考えてはいけませんので、注意が必要です。

3. 自宅・車・通信費など、私用と事業用をどう分けるか?

私用と事業用で按分対応が必要な三大項目が、自宅・車・通信費です。この章では、それぞれの計算方法の選択肢と、選ぶときの判断材料を整理していきます。ここは金額のインパクトが大きく、同時に記録不足で否認されやすい領域でもあるので、丁寧に見ていただければと思います。

3.1. 自宅事務所は、簡易法と実額法のどちらを選ぶか?

まず前提として、自宅の一部を経費にするには「専用(Exclusive)かつ定期的(Regular)な事業使用」が必要になります。リビングのダイニングテーブルで仕事をしていて、夜は家族が食事に使う。この場合、一般的に「専用使用」の要件は満たさないと考えられます。逆に言えば、寝室の一角だとして、そこを仕事専用に区切って使っているなら対象になり得ます。

そのうえで、計算方法は2つあります。

簡易法(Simplified Method) 実額法(Form 8829)
計算 事業使用面積 × $5(年間、面積上限300平方フィート) 家賃・光熱費・保険・減価償却等 × 事業使用割合
控除上限 年$1,500 簡易法のような一律の金額上限なし
記録の手間 面積の記録のみ 全経費の領収書と按分計算
繰越 所得制限で使えなかった分は繰り越せない 繰り越せる
自宅の減価償却 行わない 持ち家の場合は必要
Sch Cでの計上先 Schedule C Line 30(Worksheetで計算) Form 8829 → Schedule C Line 30

選び方の実務的な目安を言えば、都市部で家賃が高い賃貸なら実額法が有利になりやすく、賃料等は低いがスペースが広いような場合には簡易法のほうが有利になりやすいです。持ち家で実額法を使うと自宅の減価償却を行うことになり、売却時にその減価償却分について課税上の調整(Recapture)が生じる可能性があります。

計算方法について、年ごとに方法を変えることはできます。ただし、簡易法を使った年の実額費用を後から繰り越すことはできませんので、注意が必要です。

3.2. 車は標準マイレージ率と実額のどちらを使うか?

車両費についても、2つの計算方法があります。標準マイレージ率(Standard Mileage Rate)は、事業走行距離に年ごとに定められた単価を掛ける方法です。実額法(Actual Expenses)は、ガソリン、保険、修理、減価償却などの実費に事業使用割合を掛けることで算出します。

なお、この計算方法の選択には順序の制約がありますので注意が必要です。その車について初年度に標準マイレージ率を選ばなかった場合、その車の使用期間中は実額法から標準マイレージ率への切り替えは出来ません。リース車の場合は、リース期間を通じて選んだ方法を継続することになります。

また、どちらの方法を取ったとしても走行記録は必須になります。日付・行き先・目的・距離などの情報がないと、方法の有利不利以前に控除そのものが危うくなってしまうためです。スマートフォンのマイレージ記録アプリでも、手書きのノートでも構いませんので、できる限りこまめに記録を取っておかれることをおすすめします。

特に注意が必要なのは通勤(Commute)の扱いです。自宅からオフィス・仕事場への移動は通勤であり、経費になりませんので注意してください。ただし自宅が税務上の主たる事業所(Principal place of business)に該当するようなケースでは、自宅から顧客先への移動が事業目的の走行として取り扱われます。

3.3. 自宅のインターネット代はどこまで計上できるか?

結論としては、事業使用割合分のみです。在宅で仕事をしているからといって、家族も使っている回線を全額計上するのは無理があります。

按分の根拠としてよく使われるのは、次のような考え方です。どの方法を選択するにせよ、合理的な範囲で後から説明がつくような方法を選ぶことが重要になります。

  • 業務時間ベース:週の総利用時間のうち業務時間の割合を算出する
  • 利用者ベース:世帯の利用者数と業務専用利用の関係から見積もる
  • 回線分離:業務専用回線を別契約にし、その全額を計上する

4. 日本での支払いや一時帰国費用は、何を確認して処理するか?

ここが、日本語話者の個人事業主にとって最も判断しづらい領域かと思います。この章では、日本のクレジットカードや円建て口座で払った費用の扱い、円建て記録の換算、そして一時帰国の旅費という3つの場面を順に確認します。

4.1. 日本のクレジットカードで払った仕事用の費用は経費になるか?

結論からいえば、支払手段や支払地は、経費該当性の判定基準ではありません。米国の事業のために通常かつ必要な支出であれば、日本のカードで払っても、日本円で払っても、経費になり得ます。

ただし、米国事業の口座から払った支出に比べて、確認すべきことが増えます。

  • 事業目的の説明:その支出が米国の事業のどの業務に対応するか
  • 支払証拠:日本のカード明細・銀行明細・領収書(日本語のままで構いませんが、内容の要約は残す)
  • 換算の根拠:円建て金額を米ドルに換算した日付とレート
  • 二重計上の回避:日本の法人側でも事業経費として申告していないか

換算については、取引日のレートで換算する方法が原則です。取引が年間を通じて多数ある場合、年間平均レートを継続して使う方法も認められます。大事なのは、どの方法を使ったかを明記し、年度をまたいで一貫させることです。カード会社が円建て請求をドルで引き落としているなら、その引き落とし額をそのまま使うのが最も説明しやすい記録になります。

日本との違い:日本では領収書の宛名や但し書きが重視され、「上様」領収書の扱いなどが議論になります。米国では宛名の形式よりも、金額・日付・内容・事業目的が説明できるかが問われます。一方で、飲食費や旅費のように「誰と、何の目的で」という記録が明確に求められる項目があり、レシートだけでは足りません。日米では重視されるポイントが少し異なるとご理解いただければ良いかと思います。

なお、日本にも事業や収入があり、日本でも申告している場合は、同じ支出をどちらの国の経費にするかの整理が必要です。日米の租税条約や外国税額控除が絡むため、この場合は自己判断せず会計士などの専門家へ確認したほうが安全だと思います。

4.2. 日本への一時帰国の旅費は、どこまで経費にできるか?

結論として、経費にできるかの判断は税務上の本拠地(Tax Home)がどこかという点から考えると良いです。

Tax Homeはいわゆる家族の住まいではなく、主たる事業活動の場所で判定されます。米国で事業をしていれば、通常は米国の事業拠点がTax Homeになります。その場合、日本は「本拠地を離れた出張先」になり得ます。

そのうえで、次の順に確認していきます。

  • 旅行の主たる目的が事業か私用か:米国外への旅行では、事業日数と私用日数の比率が重要な判断材料になります
  • 渡航費(航空券)の扱い:主たる目的が事業なら全額、そうでなければ按分または不可
  • 現地費用の扱い:事業日に対応する宿泊費・交通費は控除対象、私用日の分は対象外
  • 飲食費:事業日の分でも原則50%制限(通常の取り扱いに同じ)
  • 同行家族の費用:配偶者・子の旅費は、その人に独立した事業目的がない限り控除できません

米国外への旅行については、事業目的の判定に関する例外規定がいくつかあります。たとえば、米国外での旅行期間が1週間以内の場合や、1週間を超えていても私的活動の割合が25%未満の場合などには、往復交通費の按分が不要となる例外があります。これらの例外に該当しても、私的活動に伴う宿泊費や食事代などは控除できません。また、1週間以内かどうかの判定と25%未満かどうかの判定では出発日の数え方が異なるため、具体的な日程に基づく確認が必要になります。

以下、具体的な例で見てみます(以下は説明のための仮の数字です)。

  • 日本滞在14日間。うち取引先との商談・現地調査が5日、残り9日は実家滞在と観光
  • 往復航空券 $1,400、宿泊費 事業日分 $600、私用日分 $900

この場合、私的活動が9日で全体の64%を占め、旅行の主目的が事業とは言いにくくなります。航空券の全額計上は難しく、宿泊費も事業日分の$600に限られる、という整理が現実的です。逆に、商談が10日で観光が2日なら、結論は変わってきます。記録としては、面談相手・日時・議題が分かるメール、名刺、訪問先の記録を残しておくと良いです。

5. Schedule Cの事業経費と、それ以外の控除は何が違うか?

ここは混同が最も多いところです。この章では、Schedule Cに入る経費と、Schedule 1に入る控除の違いを整理し、自営業税(Self-Employment Tax)との関係を確認したいと思います。

5.1. Schedule Cの経費は、何を減らすのか?

Schedule Cの事業経費は、事業の純利益(Net Profit)を減らします。純利益が減れば、所得税の課税所得が減り、同時に自営業税の計算の基礎も減ります。

自営業税は、自営業からの純利益が$400以上ある場合に原則として課されます。計算は、純利益に92.35%を掛けた額に対して、社会保障税12.4%とメディケア税2.9%を合わせた15.3%を適用するのが基本形です。ただし、次の条件が関係する場合がありますので、計算方法には注意が必要です。

  • 社会保障税部分の上限:社会保障税の対象となる所得には年ごとに上限額があり、それを超える部分には12.4%がかかりません。メディケア税2.9%には上限がありません
  • 給与所得との合算:W-2の給与がある場合、その給与に対する社会保障税課税額が先に上限枠を消費します。自営業所得に残る枠はその分減ります。
  • 追加メディケア税:一定の所得を超える部分に0.9%が追加されます。基準額は、独身等$200,000、夫婦合算申告$250,000、夫婦個別申告$125,000です(Form 8959で計算)
  • 任意計算方法(Optional Methods):利益が少ない、または赤字の年に、社会保障の受給資格を確保する目的で使える計算方法があります

つまり、給与所得もある方が「純利益 × 92.35% × 15.3%」で概算すると、社会保障税部分を二重に見積もってしまう可能性がありますので、注意が必要です。

5.2. 自営業税の半額控除と健康保険料控除は、どこに入るか?

この2つはSchedule Cの経費ではありません。Schedule 1(Additional Income and Adjustments to Income)の調整項目として、総所得から差し引きます。

項目 性質 計上先 主な要件
事業経費 事業純利益を減らす Schedule C Part II 通常かつ必要な事業支出
自営業税の半額控除 所得税の課税所得を減らす Schedule SEで計算 → Schedule 1 自営業税を負担していること
自営業者の健康保険料控除 所得税の課税所得を減らす Schedule 1 事業の純利益の範囲内。本人または配偶者が雇用主の補助制度に加入資格がある月は対象外
適格事業所得控除(QBI) 所得税の課税所得を減らす Form 8995等 → Form 1040 所得水準・業種による制限あり

ここで、よく見かける誤解を正しておきたいと思います。自営業税の半額控除は、所得税の計算上の控除であって、自営業税そのものを減らす控除ではありません。給与所得者の場合、雇用主が負担する社会保障税・メディケア税の半額は従業員の課税所得に含まれません。自営業者は両方を自分で負担するため、その釣り合いを取る目的で半額を所得から控除するという仕組みになっています。

また、健康保険料控除には見落とされやすい要件があります。本人または配偶者が、雇用主の補助のある健康保険制度に加入できる資格がある月は、その月分は対象外となります。配偶者がW-2で働いていて会社の保険に入れるという状況だと、ご自身がマーケットプレイスで保険を買っていてもこの控除が使えない場合があります。

5.3. 「アメリカで個人事業主が節税する」とはどういうことか?

率直に申し上げると、経費計上は「節税」ではなく「正しい所得計算」になります。

仮定例で見てみましょう(説明のための仮の数字です)。年間の事業純利益が$80,000の独身のフリーランスが、年末に$5,000のパソコンとソフトを購入したとします。仮に限界税率が22%、自営業税の実効的な負担がおよそ14%程度として、粗く見積もると税負担の軽減は$1,500前後になります。

購入しない場合 $5,000を支出した場合
現金の支出 $0 $5,000
概算の税負担軽減 $0 約$1,500
手元に残る現金の差 基準 約$3,500減

事業に本当に必要な機材なら、買う判断は合理的だと思います。税負担が軽くなる分、実質負担は$3,500で済むためです。しかし、必要でないものを「節税のため」に買えば、$3,500を失っただけです。

そのため、支出をむやみに増やすのではなく、本来計上できる支出を取りこぼさないように努めることが “節税” にとって重要だと考えています。自宅事務所、事業使用分の通信費、業務走行、専門書やオンライン講座、決済手数料など、こうした地味な項目の積み上げのほうが年末の駆け込み購入より確実に税負担の軽減につながります。あわせて、退職年金制度(SEP IRAやSolo 401(k)など)の活用も検討されると、本来払う必要のない税金をセーブすることが可能です。

6. 日々の記帳から申告まで、何を揃えてどう確認するか?

最後に、日常の記録から申告準備までの流れを整理します。この章を読めば、「何をいつ記録し、年末に何を突き合わせるか」が決まります。経費判断は正しくても、記録が追いついていなければ結局使えないということになりかねません。

6.1. 日々、何を記録すればよいか?

記録の基本は「金額・日付・支払先・事業目的・分類」の5点です。会計ソフトを使っても手書きでも、この5点が揃っていれば問題ありません。

実務上、最初にやるべきことは一つです。事業専用の銀行口座とクレジットカードを分けること。これだけで、年度末の作業量が半分以下になります。私的な支出が混ざった口座から1年分の私用と事業を仕分ける作業は、経験上、最も時間を食い、最も間違いが起きます。

そのうえで、項目ごとに必要な追加記録があります。

  • 飲食費:同席者と事業目的を必ずメモする
  • 車両走行の記録:日付・行き先・目的・距離をその都度記録する
  • 出張:旅程と、各日が事業日か私用日かの区別を残す
  • 資産購入:購入日ではなく「事業で使い始めた日」を記録する
  • 日本での支出:円建て金額、換算レート、換算日を併記する

記録の保存期間は、原則として申告期限から3年です。ただし、減価償却資産についてはその資産を処分した年の申告期限から起算するため、実際には10年以上保管が必要になることがあります。例えばパソコンの購入証憑を3年で捨ててしまわないように注意してください。

6.2. 赤字が続いた場合、事業として認められるか?

赤字の年数だけで結論は出ません。IRSは、事業(Business)か趣味(Hobby)かを、営利目的の有無を中心に複数の要素で判断します。主な判断材料は次のとおりです。

  • ビジネスライクな方法で活動し、帳簿・記録を適切に維持しているか
  • 活動に費やす時間と労力が、営利目的を示しているか
  • 生活を活動からの所得に依存しているか
  • 損失が事業の立ち上がり段階に通常生じるものか、自己のコントロール外の事情によるものか
  • 収益性を改善するために運営方法を変更しているか
  • 本人または助言者が、その事業を成功させる知識を持っているか
  • 過去に類似の活動で利益を出した実績があるか
  • 活動が一部の年に利益を出しているか、その金額はどうか
  • 資産価値の上昇から将来利益を期待できるか

「5年のうち3年黒字なら事業」という推定の規定はありますが、これを満たさなければ即座に趣味と判定されるというものではありません。逆にいえば、赤字が続く年こそ、帳簿の質・営業活動の記録・改善のための施策の記録が意味を持ってきます。

6.3. 年末から申告準備までの確認手順

手順は大きく4ステップです。

  • ステップ1:口座とカードの明細を全件分類する。事業口座の取引をすべてSchedule Cの行に対応づけます。分類できない取引は「保留」にまとめ、後でまとめて判断します。
  • ステップ2:事業口座外の事業支出を拾う。個人カードで払った事業支出、日本のカードで払った支出、現金払いのレシート。ここが最も抜けやすく、最も損をする部分です。
  • ステップ3:按分項目を計算する。自宅事務所、車両、通信費。それぞれ計算方法を決め、根拠を1枚のメモにまとめます。
  • ステップ4:Schedule C以外の項目を確認する。Schedule SEで自営業税と半額控除、Schedule 1で健康保険料控除と退職年金拠出、Form 8995等でQBI控除。

あわせて確認したいのが、州税の取り扱いです。連邦で認められる経費が州でも同じとは限りません。たとえばカリフォルニア州は連邦の一部規定と非連動で、Section 179の上限額が連邦より低く設定されています。ニューヨーク州やニュージャージー州でも、項目によって連邦と異なる扱いがありますので、連邦の数字をそのまま州の申告書に持ち込めないケースが多い点には注意が必要です。

当サイトの見解

アメリカの会計士として日系の個人事業主の方々のご相談を受けていて、最も多いのは「経費になるかどうか」の質問です。しかし実際に申告書を見せていただくと、問題は経費該当性ではなく、記録が説明に耐えないことにあるケースが大半です。

経費の可否は、多くの場合そこまでグレーではありません。事業のために使ったものは経費で、私生活のために使ったものは経費ではない。混ざっていれば按分する。原則はシンプルです。その中で特に問題になるのは、1年後・3年後に「これは何の支出でしたか」と聞かれたときに答えられるかどうかです。

そのため、私たちが最初におすすめするのは、(複雑な節税策ではなく)次の3つです。

  • 事業用の口座とカードを完全に分ける(すぐ実行できて、効果が最も大きいです)
  • 按分の根拠を年1回、1枚のメモに残す(自宅面積、業務走行の集計、通信費の計算方法)
  • 迷った支出は「保留」フォルダに入れて、年に一度まとめて判断する(その場で悩まない、迷ったら会計士にスポットでもいいので相談)

もうひとつ申し上げたいのは、日本での申告経験を米国にそのまま持ち込まないことです。例えば「青色申告特別控除」のような制度は米国にありません。一方で、自宅事務所の簡易法やSection 179のように、日本にはない選択肢もあります。制度を一対一で対応づけようとすると、かえって混乱すると思います。米国の制度は米国の制度として条件を一から確認する、というのが遠回りに見えて一番早い道なのだと考えています。

そして、自分で判断しきれない支出は無理に決めなくて構いません。日本と米国をまたぐ支出、初めての資産購入、赤字が続いている年の扱い。こうした論点は、年に一度でも確認する相手を持っておくと、署名するときの不安がずいぶん軽くなります。必要に応じて、お気軽にご相談ください。

まとめ

この記事では、米国の個人事業主が日々の支出を経費として判断し、記録し、Schedule Cへ集計するまでの実務について解説してきました。

以下に、この記事のポイントを整理しておきます。

個人事業の経費判断:3つの土台と主要経費の計上先

原則
01
「通常かつ必要」が唯一の入口。支払方法やカード名義は関係ない
同業者なら普通に支出するか(Ordinary)/事業の役に立つか(Necessary)。「なければ事業が成り立たない」ほど厳しい意味ではない。日本のクレジットカードで円建て決済した仕事用ソフト代も、事業目的があれば対象になる
原則
02
私用兼用は全額かゼロかではなく、合理的な基準で按分する
自宅・車・通信費が典型。「だいたい半分だろう」では弱く、通話/データ明細や代表3か月分の集計など根拠が要る。米国には青色・白色のような申告区分がなく、制度で守られるのではなく記録の質が重要
原則
03
買った年に全額引けるとは限らない
長く使う資産は原則として減価償却。Section 179や少額資産のDe minimis safe harborで初年度費用化できる場合もあるが、上限・要件・選択手続きがあり年度ごとに改定される。現金主義でも前払費用は対応期間に配分
判断
基準
迷ったら3つの問いで仕分ける
①同業者が同じ支出をしているか ②その支出がなくても私生活のためにいずれ買っていたか ③第三者に「なぜ事業に必要か」を30秒で説明できるか→ 説明できない支出は帳簿に入れても後で自分が困る可能性
計上
先
Schedule C Part IIの該当行へ。無ければPart V(Line 48→Line 27a)
広告・Web集客=Line 8/外注費(年$600以上は情報申告の検討、W-9保存)=Line 11/車両費(事業走行のみ、通勤は対象外)=Line 9・Part IV/減価償却・Section 179(Form 4562添付)=Line 13/事業用保険料=Line 15/専門家報酬=Line 17/事務用品=Line 18→ 本人の健康保険料控除と自営業税の半額控除はSchedule Cの経費ではなく、別枠の所得調整が必要

この記事が、米国で個人事業主として活動しながら、自分で記帳と申告準備を進めている方の助けになれば幸いです。