この記事でわかること
「Amazonのセラーセントラルを開いたら、2週間ごとに$8,432という入金がまとまって振り込まれていた。」
「この金額をそのまま『売上』としてQuickBooksに入れていいのか、自信がない――」
アメリカでAmazonやShopifyを使って物販をしている日本人の方から、こうしたご相談をよくいただきます。ECの入金は、売上そのものではありません。手数料や返金が差し引かれたあとの「手取り」がまとまって振り込まれる仕組みです。ここを分けずに記帳すると、売上も利益も、在庫も、すべての数字がずれていきます。
この記事では、EC・物販に特化して、ECサイトからの入金をどう分解して記帳するか、在庫と売上原価(COGS)の正しい処理、複数州にまたがるSales Taxへの対応という3つの論点を解説します。あわせて、記帳代行を頼むときに「このお店はECビジネスをわかっているか」を見抜く質問もお渡しします。読み終えるころには、いま任せている外注先が信頼できるかどうか、自分で判断できるようになるはずです。
この記事の目次
EC/物販の記帳が普通のビジネスと違う理由
まず、この章ではECの記帳がなぜ独特なのかを押さえます。ここを理解しておかないと、あとの一括入金の話も在庫の話も腑に落ちないかと思います。
結論からいえば、ECビジネスの難しさは「お金の動きと、売上・費用の発生タイミングがずれる」ことにあります。
普通のサービス業なら、請求書を出して入金があれば、それがほぼそのまま売上です。ところがECは違います。商品が売れた瞬間とお金が振り込まれる瞬間が別です。しかも振り込まれる金額は、売上そのものではありません。
ここに、EC特有の3つの注意ポイントが重なります。
- 入金は「手取り」でまとまる:売上から手数料・返金・広告費などが差し引かれた純額が、2週間ごとなどにまとめて入る
- 在庫が損益に絡む:仕入れた商品はすぐ費用にならず、売れて初めて「売上原価」になる
- Sales Taxが州ごとに違う:どこの州の誰に売ったかで、集めるべき税金も申告先も変わる
この3つが同時に走るのが、Amazon・Shopify型のビジネスです。だからこそ、普通の記帳のやり方をそのまま持ち込むとうまくいきません。順番に見ていきます。
入金を「売上・手数料・返金」に分解する
この章は、ECの記帳でもっとも間違えやすい部分です。ここさえ押さえれば、月次の数字はぐっと信頼できるものになります。
結論から申し上げると、Amazonからの入金額を、そのまま売上として記帳してはいけません。
なぜ入金額を売上にしてはいけないのか
理由は単純です。振り込まれるのは、売上ではなく「手取り」であるからです。
たとえば、ある2週間の実際の数字がこうだったとします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 総売上(Gross Sales) | $12,000 |
| Amazon手数料 | -$2,400 |
| FBA配送手数料 | -$900 |
| 返金(Refund) | -$268 |
| 入金額(実際の振込) | $8,432 |
ここで入金の$8,432を売上にしてしまうと、本当の売上$12,000が帳簿に表れてきません。手数料の$3,300も、返金の$268も帳簿に一切現れないことになってしまい、実態とかけ離れてしまいます。
これがなぜ問題なのか。3つ、実害があります。
- 売上規模を過小に見せる:融資審査やビザ更新で売上を証明したいとき、実態より小さく見える
- 経費が計上されない:本来は費用として引ける手数料$3,300が消え、結果として利益が実態とずれる可能性がある
- Sales Taxの計算根拠が崩れる:一般的にSales Tax(売上税)は「総売上」がベースなので、純額しか記録がないと申告の裏付けが取れない
正しい分解記帳の形
正しくは、1本の入金を複数の勘定科目に割り振ります。上の例なら、こう記帳します。
借方 Amazon手数料(Selling Fees) $2,400
借方 FBA配送手数料(Fulfillment Fees) $900
借方 売上返金(Sales Returns) $268
貸方 売上(Sales Revenue) $12,000
つまり、入金という取引を売上・手数料・返金の複数の科目にほどいていく作業が必要になります。
なお、Shopifyでも考え方は同じです。決済代行のStripeやPayPalが、決済手数料を引いた純額を送金してきます。Shopifyの記帳でも、総売上・決済手数料・返金・配送実費を分けて起票します。ここを一緒くたにしている外注先がいれば、注意が必要です。
毎回手で分解するのは現実的ではない
とはいえ、2週間ごとの入金を毎回このレポートを見ながら手作業で仕訳するのは、取引が増えると回りません。実務では、A2XやLink My Booksといったツールを使い、AmazonやShopifyの決済明細を自動でこの形に分解し、QuickBooksへ流し込むという選択肢もあります。
在庫と売上原価(COGS)を正しく計上する
在庫の扱いを間違えると「実際は儲かっていないのに黒字に見える」状態が起きてしまいます。
結論から申し上げると、仕入れた商品は、買った時点では費用になりません。売れて初めて費用(売上原価)になります。
仕入れは「費用」ではなく「資産」
たとえば$10,000分の商品を中国から仕入れたとします。この$10,000を、仕入れた月にまるごと経費にしてはいけません。まだ手元に商品が残っているからです。
会計上は、仕入れた商品は在庫(Inventory)という資産として計上します。そして売れた分だけを売上原価(COGS|Cost of Goods Sold)という費用に振り替えます。
数字で見ると、こうです。
- 仕入れ時:在庫$10,000(資産が増える。まだ費用ではない)
- その月に半分売れた:売上原価$5,000(費用になる)/在庫は$5,000残る
もし仕入れの$10,000を全額その月の費用にしてしまうと、売れ残っている$5,000分まで費用にしてしまうことになります。その月は利益が実態より少なく出て、翌月以降は逆に多く出ます。月ごとの数字がでこぼこになり、正しい経営判断ができません。
仕入れ値だけがCOGSではない
ここで見落とされがちなのが、売上原価に含めるコストの範囲です。商品そのものの仕入れ値だけがCOGSではありません。
実務上、次のようなコストも商品の原価に含めるのが原則です。
- 輸入時の送料・運賃:商品を手元に運ぶまでの費用
- 関税(Customs Duty):輸入にかかる税
- 検品・梱包などの直接費:販売できる状態にするための費用
これらを商品原価に乗せずに雑費で処理してしまうと、1個あたりの本当の原価が分からなくなります。「売れているのに現金が残らない」というEC販売業者の相談の多くは、この原価の把握が甘いことも原因であることが多いと感じます。
当サイトの見解:小規模なら現金主義も選択肢
厳密には、在庫を持つ事業者は発生主義で棚卸資産を管理するのが原則です。ただ、私たちがクライアントを見てきた経験では、年間の総収入が$25 millionを下回る小規模なセラーであれば、税務上は在庫を都度費用処理できる簡便な扱い(現金主義)が認められるケースがあります。
とはいえ、これはあくまで「税務申告上の簡便さ」の話です。経営判断のためには、月次では在庫と売上原価をきちんと把握しておくことをおすすめします。税務上ラクな処理と経営を見るための処理は、分けて考えたほうがよいかと思います。ここは自己判断せず、担当の会計士に都度確認されることをおすすめします。
複数の州に売ると複雑になるSales Tax(売上税)
この章は、EC販売事業者がもっとも後回しにしがちで、あとで一番痛い目に遭う部分です。
結論からいえば、アメリカのSales Tax(セールスタックス|売上税)は州ごとに制度が違い、ECでは複数の州で申告義務が発生することが多いです。
Nexus(ネクサス)という考え方
Sales Taxを理解する鍵は、Nexus(ネクサス)です。Nexusとは、「その州に売上税を集めて納める義務が生じるだけの、その州とのつながり」を指します。
Nexusは、大きく2種類あります。
- Physical Nexus(物理的なつながり):その州に事務所・倉庫・在庫がある。FBAで在庫がその州の倉庫に置かれると、これに該当することがある
- Economic Nexus(経済的なつながり):その州への売上が一定額(多くの州で年$100,000)や取引件数を超えると発生する
ここがECのビジネスでは特に厄介なポイントです。ShopifyでもAmazonでも、商品は全米に売れます。売上が伸びれば、複数の州でEconomic Nexusの基準を超える可能性が高くなります。しかもFBAを使う場合には、Amazonが勝手に各地の倉庫へ在庫を分散させ、知らないうちにPhysical Nexusができることもあります。
州ごとに税率もルールも違う
Nexusができた州では、その州のルールで売上税を集めて申告する必要があります。税率は州だけでなく市や郡でも上乗せされ、同じカリフォルニア州でも地域で税率が変わります。何が課税対象かも州によって違います。
まずやるべきこと
EC販売事業者がSales Taxで最初にやるべきは、次の3つです。
- 州ごとの売上を把握する:どの州にいくら売っているかを月次で見える化する
- Nexusができている州を特定する:基準を超えた州、在庫が置かれた州を洗い出す
- Amazon分と自社サイト分を分けて考える:Amazonが代納する分と、自分で申告する分を区別する
Sales Taxは、放置していても請求書が届くわけではありません。だからこそ気づきにくく、あとから複数州分をまとめて指摘されると負担が大きくなります。EC対応の記帳代行を選ぶなら、このNexus判定まで一緒に見てくれるかどうかが重要だと思います。
EC対応の記帳代行かどうかを見極める質問
この章では、いま任せている外注先や、これから頼もうとしている相手が「本当にECビジネスの記帳がわかっているか」を確かめる質問をお伝えします。
結論からいえば、「記帳ができます」と「EC・物販の記帳ができます」は全く別物です。一般的な記帳代行の多くは、ECの一括入金や在庫、複数州のSales Taxを想定していないケースが多いです。
この5つを聞けば、ほぼ判別できる
そこで、外注先の候補に次の質問をぶつけてみてください。
- 「Amazonの一括入金は、どうやって記帳しますか?」:入金額をそのまま売上にすると答えたら要注意です
- 「在庫と売上原価(COGS)はどう管理しますか?」:仕入れを全額その月の経費にする、という答えなら在庫の考え方が抜けています
- 「Sales TaxのNexus判定は見てもらえますか?」:記帳だけで税務は別、と切り分ける相手もいます。範囲を最初に確認しましょう
当サイトの見解:範囲を最初に文書で決める
多くのECクライアントを見てきた経験からいえば、トラブルの大半は「どこまでを頼んだつもりか」のズレから起きます。
記帳代行と一口にいっても、入力だけを請け負う相手もいれば、在庫の設計やSales Taxの申告まで見る相手もいます。ECの場合、記帳・在庫管理・Sales Taxは切り離せないのに、記帳だけ頼んで在庫とSales Taxが宙に浮くというケースは少なくありません。
ですから、契約前に「どこからどこまでをやってもらえるか」を、口約束ではなく文書で確認しておくことをおすすめします。この範囲(スコープ)の設定を丁寧にやるだけで、後々の手戻りが大きく減るかと思います。
まとめ
この記事では、AmazonなどのEC・物販に特化して、記帳業務やその外注先選びで押さえるべき論点について解説してきました。
以下に、この記事のポイントを整理しておきます。
EC・物販の記帳で押さえる3つの核心ポイント
01
総売上$12,000=入金$8,432+Amazon手数料$2,400+FBA配送$900+返金$268。入金額をそのまま売上にすると、売上規模・経費・Sales Taxの根拠がすべてずれる
02
$10,000仕入れ→在庫(資産)計上。半分売れたら$5,000だけ費用に。全額を仕入れ月の経費にすると利益がでこぼこに。送料・関税・検品費も原価に含める
03
どの州の誰に売ったかで税率も申告先も変化。純額しか記録がないと申告の裏付けが取れない
この記事が、アメリカでEC・物販に取り組む日本人・日系企業の方の助けになれば幸いです。