この記事でわかること
「TurboTaxを開いたら、いきなり『Schedule Cを作成しますか?』と聞かれた。自分は去年LLCを作っただけなのに、これで合っているのだろうか。」
「日本のクライアントから円で入金された分は、どのレートでドルに直せばいいのか——」
毎年2月から3月にかけて、こうしたご相談をいただきます。Schedule Cは、Form 1040に添付する事業所得の明細書です。難しいのは記入そのものよりも、そもそも自分がこの様式を使う人なのかという判断と日本円が絡んだときの集計です。
この記事では、対象者の振り分けから、Schedule CのPart IからPart Vまでの構成、為替換算、開業費や赤字年度の扱い、そして自営業税との接続までを、記入欄と対応づけて整理します。読み終えたときには、自分の申告のどこを確認すればいいかが具体的にわかる状態を目指します。
この記事の目次
1. Schedule Cは誰が出す様式か:個人事業主と単独所有LLCの位置づけ
この章では、Schedule Cの対象者を「事業形態」で線引きしたいと思います。ここを間違えると、記入欄をどれだけ丁寧に埋めても申告全体がやり直しになるため、最初に確定させておく必要があります。
1.1. Schedule Cを出すのはどういう人ですか?
答えは、米国で事業または専門業を単独で営んでいる個人です。具体的には次の2つが代表例になります。
- 個人事業主(Sole proprietor):法人化していない状態で、フリーランス・コンサルタント・小売・飲食などの事業を営んでいる個人
- 単独所有LLC(Single-member LLC)でDisregarded entityのままの人:LLCは作ったが、Form 8832やForm 2553を出して法人課税・S法人課税を選択していない場合
後者がとくに混乱しやすいところだと思います。州にLLCを登録すると、法律上は自分とは別の事業体ができます。ところが連邦税の世界では、1人のオーナーだけが所有するLLCは原則としてDisregarded Entity(無視される事業体)として扱われます。つまり、税務上はLLCが存在しないものとみなされ、オーナー個人の申告書に事業の数字を直接載せるわけです。
その載せる場所が、Form 1040に添付するSchedule Cです。「LLCなのに個人の申告書?」と思われるかもしれませんが、これが連邦税の既定の扱いになりますので注意が必要です。
1.2. 「事業」といえる規模かどうかの線引き
もう一つの判定軸が、その活動が事業(Trade or Business)といえるかどうかです。IRSは、継続性・規則性があり、利益を目的として行われている活動を事業とみなします。単発の副収入や趣味の延長であれば、Schedule Cではなくその他所得として扱われることもあります。
実務では、年に数回だけ翻訳の仕事を受けている、というレベルでも継続的な意図があればSchedule Cで申告するケースが大半です。判断に迷う典型は、赤字が何年も続いているような事業の場合です。利益を目的としているかどうかが問われ、いわゆるHobby Loss(趣味の損失)のルールで経費控除が制限されてしまう可能性があります。
2. 自分はSchedule Cで合っているかの判定
ここでは、Schedule C以外の様式を使うべきケースを4つ挙げます。誤った税務申告フォームを使うことは、提出後にIRSから不一致の通知が届く原因になりますので注意が必要です。
2.1. 判定の早見表
| あなたの状況 | メインの申告フォーム | 補足 |
|---|---|---|
| 個人事業主(法人化なし) | Schedule C | Form 1040に添付 |
| 単独所有LLC(選択なし) | Schedule C | Disregarded Entityとして扱う |
| 夫婦2人所有のLLC(コミュニティ財産州以外) | Form 1065 | パートナーシップ申告。各自にSchedule K-1 |
| 他人と共同所有のLLC | Form 1065 | 同上 |
| Form 2553でS法人を選択済み | Form 1120-S | オーナーは給与を受け取りW-2が発生 |
| Form 8832でC法人課税を選択済み | Form 1120 | 法人として別申告 |
| 住宅・店舗の賃貸収入 | Schedule E | 原則として事業所得としない |
| 農業 | Schedule F | — |
2.2. 夫婦で所有しているLLCはどうなりますか?
結論は、住んでいる州がコミュニティ財産州(Community Property State)かどうかで変わります。カリフォルニア、テキサス、ワシントン、ネバダ、アリゾナなどのコミュニティ財産州では、夫婦のみが所有するLLCをDisregarded entityとして扱うことが認められています。この場合、それぞれの持分に応じてSchedule Cを2枚作る方法や、1枚にまとめる方法が取られます。
一方、ニューヨークやニュージャージーなどコミュニティ財産州でない州では、夫婦2人所有のLLCは原則パートナーシップとなり、Form 1065の提出が必要です。Form 1065には3月15日(延長申請後は9月15日)という早い期限があり、提出しなかった場合のペナルティはパートナー1人あたり月額で計算されます。
2.3. Schedule CとSchedule Eの違いはどこにありますか?
端的にいえば、サービスの提供が伴うかどうかです。単に物件を貸して家賃を受け取るだけならSchedule E(補足所得・損失)に記載します。これは受動的な所得とみなされ、自営業税の対象外です。
これに対して、ホテルのように日常的なサービス(毎日の清掃、食事提供、リネン交換など)を提供している場合は、事業所得としてSchedule Cに載せる余地が出てきます。Airbnbなどの短期賃貸で判断が割れるのはこの点です。実務上は、単に鍵の受け渡しと退去後の清掃をしているだけならSchedule E、宿泊者の滞在中に継続的にサービスを提供しているならSchedule Cという整理をすることが多いです。
なお、この振り分けは金額に直結します。Schedule Cに載せると、その利益に対して自営業税(2026年時点で税率15.3%、うちSocial Security部分は年間の課税上限まで)がかかってきます。一方で、Schedule Eなら自営業税はかかりません。有利不利ではなく実態で決めるべき論点ですが、運営の仕方によって影響が大きく異なる点は知っておかれると良いかと思います。
3. Schedule Cの全体構成:売上、売上原価、経費、自宅・車、雑経費の流れ
この章では、2ページの様式がどう組み立てられているかを整理します。全体の流れを把握してから埋めると、どの数字をどこに入れるかで迷う時間が大幅に減るかと思います。
Schedule Cは大きく、冒頭の事業情報欄とPart IからPart Vまでの5つのパートで構成されています。
冒頭の事業情報欄で押さえるべき3点
様式の一番上には、事業の基本情報を書く欄があります。特に、ご自身で申告する方がつまずきやすいのは次の3つです。
- Line B(事業コード):6桁の業種コードを入れます。Schedule Cの説明書(Instructions)の末尾に一覧があります。翻訳・通訳なら541930、経営コンサルティングなら541610といった具合です。コードの正確性にそこまで神経質になる必要はなく、実態に最も近いものを選べば問題ありません
- Line D(EIN):従業員を雇っていない単独所有LLCの場合、EINを持っていても空欄でよいケースがあります。SSNで申告し、EINは銀行口座やW-9用にだけ使っている方は多いです
- Line F(会計方式):現金主義(Cash)か発生主義(Accrual)かを選びます。小規模事業のほとんどは現金主義です。一度選んだら、原則として毎年同じ方式を続けます
- Line G(実質的関与):自分が事業に実質的に参加しているかを問う欄です。Yesであれば、赤字を他の所得と相殺できる可能性があります
Part IからPart Vまでの役割
| パート | 内容 | 主な記入項目 |
|---|---|---|
| Part I | Income(収入) | 総売上(Line 1)、返品・値引き、売上原価を引いた粗利(Line 7) |
| Part II | Expenses(経費) | Line 8〜27で広告費・車両費・保険・家賃など。Line 31で純利益または純損失が確定 |
| Part III | Cost of Goods Sold(売上原価) | 期首在庫、仕入、人件費、期末在庫。物販をしていなければ空欄 |
| Part IV | Information on Your Vehicle(車両情報) | 車を使用開始した日、事業用・通勤・個人用のマイル数 |
| Part V | Other Expenses(雑経費) | Part IIに専用欄がない経費を自分で名前を付けて列挙。合計をLine 27aへ |
数字の流れとしては、Part IIIで計算した売上原価がPart IのLine 4に戻り、Part VのOther Expensesの合計がPart IIのLine 27aに戻ります。Part IIIとPart Vは、Part IとPart IIの内訳という位置づけです。
最終的にLine 31で出た金額が、Form 1040のSchedule 1(Additional Income)のLine 3に転記され、そこから所得全体に合流します。同じ金額がSchedule SEにも流れ、自営業税の計算基礎になります。
4. 日本のクライアントからの売上をどう集計するか:入金通貨と為替換算の考え方
この章は、日本人フリーランスに固有の論点になります。特に円建ての入金がある方は確認されると良いかと思います。
4.1. 日本からの入金もPart Iの売上に含めますか?
米国の税務上の居住者であれば、答えははい、全世界所得が課税対象なので含めます。日本のクライアントから日本の銀行口座に円で振り込まれた報酬も、米国で申告するSchedule CのLine 1に含める必要があります。
「日本側で源泉徴収されているから米国では関係ない」と考えて除外してしまう方がいます。これは誤りです。源泉徴収された日本の税金については、Form 1116の外国税額控除で二重課税を調整する道があります。収入そのものを除外するのではなく、税額の段階で調整するという考え方になります。
なお、どちらの国の居住者として扱われるかが微妙なケース(日本にも居所がある、年の途中で渡米したなど)では、日米租税条約の振り分け規定(Tie-breaker rule)の検討が必要になります。この判定を誤るとそもそもSchedule Cを出すべきかどうかの結論が変わってきますので、迷われる場合は会計士に相談されることをおすすめします。
4.2. 為替レートはどれを使えばいいですか?
結論は、取引が発生した日のスポットレートを使うのが原則です。IRSは特定の公的レートを強制しておらず、合理的で一貫した方法であれば認められています。
実務では、次の2つの方法がよく使われます。
- 取引日レート方式:入金1件ごとに、その日のレートで換算する。取引件数が少ない場合やレート変動が大きい年に適する
- 年平均レート方式:IRSが公表するYearly Average Exchange Ratesを使って年間の円売上をまとめて換算する。毎月定額の顧問料が入金されるような場合に実務的
重要なのは、選んだ方法を年を通じて一貫させること、そして換算の根拠を残しておくことです。税務調査で問われるのは「なぜそのレートなのか」であって、「なぜ他のレートを使わなかったのか」は重要視されません。例えば、Excelで「入金日・円額・適用レート・ドル額・レートの出典」の5列を作っておけば十分な説明資料になります。
4.3. 日本の銀行手数料や送金コストはどう扱いますか?
結論として、事業に関連する支払いであれば経費になります。ただし記入欄の選び方には注意が必要です。
- 国際送金手数料・被仕向送金手数料:Line 10(Commissions and fees)またはPart Vの雑経費として計上します
- 日本の事業用口座の維持手数料:同様に経費。個人口座と兼用している場合は事業使用割合で按分します
- 為替差損益:入金時と米ドルへの両替時でレートが動いた分は、原則として為替差損益として別途扱います。少額であればPart Vにまとめて記載する運用が一般的です
もう一つ、円建て口座の残高が年間のどこかの時点で合計1万ドル相当を超えた場合は、FinCEN Form 114(FBAR)の提出義務が別に発生します。Schedule Cとは別の話ですが、日本に口座を残している方はほぼ全員が関係します。売上の集計をしている段階で、口座残高の最高額も一緒に拾っておくと二度手間になりません。
5. 経費欄の埋め方でつまずきやすいところ
この章では、Part IIの経費欄で判断に迷う支出を扱います。「どの行に入れるか」で悩んで作業が止まる方が多いと思うので、優先順位を先に示しておきます。
5.1. 専用欄がない経費はどこに書きますか?
答えは、Part V(Other Expenses)に自分で名称を付けて書くです。Part IIのLine 8からLine 27には、広告費・車両費・保険料・法務会計費・家賃・修繕費・消耗品・旅費・食事・光熱費などの定番区分が並んでいますが、実際の支出がすべてきれいに当てはまるわけではありません。
Part Vに書く典型例を挙げます。
- ソフトウェアのサブスクリプション(Adobe、Zoom、QuickBooksなど)
- ウェブサイトのホスティング・ドメイン費用
- 業界団体の年会費、専門資格の更新費用
- 書籍・オンライン講座などの継続教育費
- 銀行手数料、決済サービス手数料(Stripe、PayPalなど)
- 日本のクライアント向けに使っている国際電話・通信費
ここで大事なのは、どの行に入れるかよりも、漏れなく計上することと、名称が第三者に伝わることです。例えば「Miscellaneous $8,400」と1行だけ書くのは避けるべきです。中身が不明な大きな雑費は、監査時の確認対象になりやすいためです。ある程度は具体的に「Software subscriptions $2,100」「Professional dues $450」のように分けて書くほうが安全です。
5.2. 自宅オフィスの経費はSchedule Cに直接書けますか?
いいえ、Line 30に金額を入れますが、その計算はForm 8829で行うのが原則です。自宅の一部を専属的かつ定期的に事業に使っている場合に限り、家賃・住宅ローン利息・固定資産税・光熱費・保険料などを事業使用面積の割合で按分できます。
簡便法(Simplified Option)もあります。2026年時点で、事業使用面積1平方フィートあたり$5、上限300平方フィート(つまり年間最大$1,500)を控除する方法です。Form 8829を作らずにSchedule Cに直接記入できるため、ご自身で税務申告される個人事業主の方には現実的な選択肢だと思います。
特に注意すべき点は、「専属的」の要件です。例えば「リビングの一角のテーブルで仕事をしている」というだけでは要件を満たしません。その空間を事業以外に使っていないことがこの経費を計上できる条件になります。実務で見ていると、ここを緩く解釈して控除を取っている申告書がかなりあります。金額が小さければ問題が表面化しにくいというだけで、要件を満たしているわけではありませんので注意が必要です。
5.3. 車両費はマイレージか実費か
Part IVに車両情報を書く場合、控除方法は2つあります。
- 標準マイレージ方式:事業使用マイル数にIRSが毎年公表する料率を掛ける。2025年の料率は1マイルあたり70セントでした(2026年分は年ごとに改定されるため、申告時点の最新値を確認してください)
- 実費方式:ガソリン代、保険、修理、減価償却などを実額で集計し、事業使用割合を掛ける
ご自身で準備して税務申告をする場合には、圧倒的に標準マイレージ方式をおすすめします。記録の手間が「日付・行き先・目的・マイル数」の4項目で済むためです。ただし、車を使い始めた最初の年に実費方式を選ぶと、その後その車についてマイレージ方式に変更できなくなるデメリットがあります。1年目の選択が固定されるという点には注意が必要です。
そして、自宅から常設の職場への通勤は事業使用マイルに入りません。Part IVには通勤マイルを別に書く欄があり、ここを0と書いている申告書は形式的に不自然に見えますので注意しましょう。
6. 開業初年度の書き方:開業費と初年度に事業が小さい場合
この章は、去年事業を始めたばかりの方向けです。開業費の扱いは初年度にしか出てこない論点なので、知らないまま全額を経費にしてしまうケースが非常に多いところです。
6.1. 開業前に使ったお金はその年に全額経費にできますか?
結論は、全額ではありません。初年度に控除できるのは原則$5,000までで、残った金額は15年間(180か月)で定額償却します。これがIRC §195に定められた開業費(Start-up costs)の扱いになります。
対象になるのは、事業を開始する前に支出した次のようなものです。
- 市場調査・競合調査の費用
- 開業前の広告宣伝費
- 従業員の事前研修費
- 取引先やサプライヤーの開拓にかかった旅費
- 開業前に受けたコンサルティング・専門家報酬
さらに条件があります。開業費の総額が$50,000を超えると、初年度に控除できる$5,000の枠がドル・フォー・ドルで減っていきます。つまり、総額$55,000を超えると初年度の即時控除はゼロになり(初年度控除枠 $5,000 – 基準額を超えた金額 $5,000)、全額が15年償却になります。
なお、創業費(Organizational costs、LLCの登録費用や定款作成の弁護士費用など)も、これとは別枠で同じ$5,000ルールが適用されます。
6.2. 「事業を開始した日」はいつですか?
開業費と通常経費の境目は、事業が実際に稼働を始めた日です。LLCを登録した日でも、銀行口座を開いた日でもありません。サービス業なら最初のクライアントに営業を開始した日、小売なら店を開けた日が目安になります。
この日以降に使った費用は、開業費ではなく通常の事業経費とすれば良く、Part IIの該当欄にそのまま計上していきます。実務ではこの線引きを明確にするために、開業日を記録に残しておくことをおすすめしています。最初のインボイスの日付、最初の広告出稿日、ウェブサイトの公開日など、客観的な証拠になるものを1つ押さえておけば十分です。
6.3. 初年度に売上がほとんどない場合
売上が数百ドル、経費が数千ドルという初年度はよくあります。この場合でも、事業として稼働していればSchedule Cを提出します。純損失が出ますが、それ自体は問題ではありません。
ただし注意点があります。事業がまだ開始していない状態(準備だけしていて会社登記もなく、まだサービスを提供していない段階)でSchedule Cを出し、準備費用を経費として控除するのは誤りです。この場合はそもそもSchedule Cを出す段階に至っておらず、支出は開業費として翌年以降に持ち越します。
7. 赤字になった年のSchedule C:自営業税とForm 1040への波及
この章では、Line 31がマイナスになった年の申告を解説します。赤字は単に「税金が減る」だけではなく、Schedule SEや翌年以降の申告にまで影響するので、流れを押さえておくと良いです。
7.1. Schedule Cが赤字だと自営業税はどうなりますか?
答えは、自営業税は発生しません。Schedule SEは純利益がある場合に計算する様式なので、Line 31がマイナスなら計算対象がありません。
ただし、これには副作用があります。自営業税はSocial SecurityとMedicareの保険料に相当します。赤字の年は保険料を納めないため、Social Securityの受給資格を得るためのクレジット(Credit)が積み上がりません。将来の年金受給を見据えている方にとっては、単純に「税金がかからなくてよかった」で終わらない話です。
なお、純利益が年間$400未満の場合も自営業税は発生しません。逆にいえば、$400以上の純利益があればSchedule SEの提出が必要になります。
7.2. 赤字は他の所得と相殺できますか?
条件付きでできます。Schedule CのLine 31の損失はSchedule 1を経由してForm 1040の総所得に流れ、配偶者の給与所得や自分の投資所得と相殺されます。
なお、相殺を制限する規定が3つありますので下記にご紹介します。
- At-risk ルール(Line 32):自分が経済的にリスクを負っている金額を超える損失は控除できません。Schedule CのLine 32で「すべての投資がAt-riskか」を選ぶ欄があります
- 受動的活動損失ルール:事業に実質的に参加していない場合、損失は受動的損失として扱われ、控除が制限されます。冒頭のLine Gでの回答が関係します
- 超過事業損失(Excess Business Loss):一定額を超える事業損失は、その年に控除できず翌年以降に繰り越されます。なお、限度額は毎年インフレ調整されます
控除しきれなかった損失は、純営業損失(NOL)として翌年以降に繰り越すことができます。2018年以降は繰越のみで繰戻しはできず、繰越先の年の課税所得の80%までという制限がありますので注意しましょう。
7.3. 赤字が続く年が何年もある場合
これは実務経験からの注意喚起になりますが、3年、4年と連続で赤字のSchedule CはIRSから見て目立ちます。とくに、他に給与所得がありその赤字で税額を下げている構図だと、営利目的の有無(Profit motive)が問われやすくなります。
目安としてよく引用されるのは、過去5年のうち3年で利益が出ていれば営利目的が推定される、という基準です。ただしこれは推定を働かせる基準であって、赤字が続いていたら即座に否認されるわけではありません。事業計画の存在、記録の整備、事業改善の努力といった事実の積み上げで、営利目的を示すことは可能です。
私たちがクライアントにお伝えしているのは、赤字が続く年こそ、記録を丁寧に残してくださいということです。営業活動の記録、価格改定の検討メモ、広告の出稿履歴。これらは黒字の年には誰も見ませんが、赤字が続いた年に「事業が営利目的であること」を説明する重要な材料になります。
8. Schedule Cに含めないもの
この章では、Schedule Cに入れてしまいがちだが入れてはいけないものを整理します。入れた結果として自営業税を過大に払っているケースが実際にありますので、注意が必要です。
8.1. Schedule Cに入れてはいけない収入
- 不動産賃貸収入:サービス提供を伴わない賃貸はSchedule Eです。Schedule Cに入れると不要な自営業税がかかります
- 利子・配当:Schedule Bまたは1040本体で扱います。事業用口座についた利子であっても、通常は事業所得ではありません
- 株式・暗号資産の売却益:Schedule DとForm 8949です。トレーダーとしての要件を満たす場合のみ例外的な扱いがあります
- W-2で受け取った給与:Form 1040の給与欄です。S法人を選択したLLCのオーナーが役員報酬をW-2で受け取っている場合、それはSchedule Cには入りません
- パートナーシップからのK-1所得:Schedule Eの第2部です
8.2. 自分への「給与」は経費にできますか?
結論として、できません。ここは日本人オーナーが最も誤解しやすいポイントです。
個人事業主および単独所有LLCのオーナーは、税務上は自分自身と事業が同一人物です。事業用口座から自分の個人口座に資金を移す行為は、Owner’s draw(オーナーの引き出し)であって、経費ではありません。Part IIのどの欄にも記入しません。
Line 26は「Wages(賃金)」の欄ですが、ここに入るのは従業員に支払った給与だけです。W-2を発行し、給与税を納付した相手への支払いに限られます。自分に対してW-2を発行することは、単独所有LLCではそもそもできません。
8.3. 自分の健康保険料や退職金拠出はどこに書きますか?
Schedule CのPart IIではなく、Form 1040のSchedule 1(調整項目)に書きます。以下は誤りが起きやすい項目ですので、整理しておきます。
- 自営業者の健康保険料控除:Schedule 1のLine 17。Schedule CのLine 15(Insurance)に入れるのは誤りです。Line 15に入るのは事業の損害保険や賠償責任保険です
- SEP-IRA・SIMPLE IRA・Solo 401(k)への拠出(オーナー分):Schedule 1のLine 16。Line 19(Pension and profit-sharing plans)に入るのは従業員分のみです
- 自営業税の半額控除:Schedule 1のLine 15。Schedule SEで自動的に計算されます
この3つは、Schedule Cの利益を減らすのではなく、総所得から差し引く調整項目です。自営業税の計算基礎には影響しない点に注意してください。Schedule Cに入れてしまうと自営業税まで減ってしまうため、位置を間違えると過少申告になってしまいます。
9. Schedule Cを作ったあとにやること
この章では、Schedule Cを完成させたあとに続く2つの作業を説明します。ここを飛ばすと、申告自体は正しくてもペナルティが発生する可能性がありますので注意しましょう。
9.1. Schedule SEには何を書きますか?
Schedule CのLine 31の金額を転記して、自営業税を計算します。流れは次のとおりです。
- Line 31の純利益に92.35%を掛けて、自営業税の課税対象額を算出する
- その金額に15.3%を掛ける(Social Security 12.4% + Medicare 2.9%)
- Social Security部分には年間の課税上限がある(2026年時点で毎年インフレ調整され、上限を超える部分にはMedicare分のみ課税)
- 所得が一定額を超えると、追加Medicare税0.9%が別途加算される
- 計算した自営業税の半額は、Schedule 1で所得控除として差し引ける
複数のSchedule Cがある場合(たとえば翻訳業とコンサルティング業を別々に申告している場合)、Schedule SEは1枚にまとめます。なお、利益と損失は通算して計算します。
9.2. 予定納税はいつ、いくら払いますか?
結論は、その年の税額が$1,000以上になる見込みなら、年4回の予定納税が必要です。個人事業主には給与のような源泉徴収がないため、自分で分割納付する必要があります。
| 対象期間 | 納付期限(原則) |
|---|---|
| 1月1日〜3月31日 | 4月15日 |
| 4月1日〜5月31日 | 6月15日 |
| 6月1日〜8月31日 | 9月15日 |
| 9月1日〜12月31日 | 翌年1月15日 |
期限が土日祝の場合は翌営業日にずれます。使用する様式はForm 1040-ESです。
過少納付のペナルティを避ける実務的な方法が、セーフハーバー・ルールです。前年の税額の100%(前年のAGIが$150,000超なら110%)を納めていれば、その年の実際の税額がいくらであってもペナルティは課されません。売上の見通しが立ちにくいフリーランスにとって、前年実績を基準にする方法は計算が楽で確実ですのでおすすめです。
10. 提出期限と延長、申告後に誤りを見つけた場合
この章では、いつまでに何を出すか、そして間違いに気づいたときの手順を示します。Schedule Cは単体で提出する様式ではないため、期限は個人申告の期限に連動します。
10.1. Schedule Cの提出期限はいつですか?
答えとしては、Form 1040の提出期限と同じ、原則として翌年4月15日です。Schedule CはForm 1040への添付書類なので、独自の期限は設けられていません。なお、土日祝の関係で1〜2日ずれる年もあります。
延長する場合はForm 4868を提出します。提出すると10月15日まで6か月の延長が認められます。なお、延長されるのは提出期限だけで、納税期限は延長されません。4月15日までに見積もり税額を納付していないと、延長申請をしていても利息と過少納付加算税が発生します。よくある誤りとして「まだ数字が固まっていないから、払うのも10月でいい」という誤解には注意が必要です。
10.2. 提出後に誤りを見つけたらどうしますか?
Form 1040-X(Amended U.S. Individual Income Tax Return)で修正申告します。修正したSchedule Cを添付し、変更理由をPart IIIに記載します。
還付を受けるための修正申告には期限があります。元の申告期限から3年、または税金を納付した日から2年のいずれか遅いほうです。2022年分の申告について還付を求める修正なら、2026年4月15日が目安になります。
一般によくある修正理由を下記に挙げておきますが、実務上は全ての誤りについて修正申告をするかというと、そうでもありません。様々な理由により、あえて修正申告をしないという選択をするケースもあります。金額が小さく、税額に影響がない誤り(たとえば経費を別の行に入れていただけで合計が同じ場合)は、修正申告をせず翌年から正しく処理する判断もありえます。このあたりの塩梅については、会計士へ個別に相談されることをおすすめします。
- 1099-NECが後から届き、売上の計上漏れが判明した
- Schedule EとSchedule Cを取り違えていた(賃貸収入を事業所得にしていた)
- 開業費を初年度に全額控除していた
- 健康保険料をSchedule CのLine 15に入れていた
10.3. 当サイトの見解:自身で準備して税務申告する場合、一番リスクが高いのはどこか
私たちが実務で見てきた範囲でお伝えすると、ご自身で申告される場合で本当に危ないのは、Schedule Cの記入ミスではなく、Schedule C以外の申告漏れです。
Schedule Cの経費を$500多く入れてしまった、行を間違えた——この種のミスは、金額的な影響が限定的です。修正申告で対応できますし、税額への影響も数十ドルから数百ドルの範囲に収まることが多いでしょう。
問題は別のところにあります。FBARの提出漏れ、日本法人の株式を持っているのにForm 5471を出していない、Form 8938の判定をしていない。これらは1件あたり$10,000から始まるペナルティが定められており、税額とは無関係に課されます。売上が$30,000の小さな事業でも、ペナルティの金額は変わりません。
ですので、ご自身での申告を続ける場合でも初年度だけは一度専門家に全体を見てもらうことをおすすめします。Schedule Cの書き方を教わるためではなく、自分の状況で「Schedule C以外に何が必要か」のリストを作るためです。リストさえ確定すれば、翌年以降は同じ様式を自分で埋めていけることも多いです。
逆にいえば、この確認をしないまま3年、4年と自己流の税務申告を続けている状態が一番不安定です。毎年同じ漏れを繰り返すことになり、発覚したときの累積ペナルティが大きくなりえます。「自分でやっているが確認する相手がいない」という状態は避け、一度は会計士にご相談されることをおすすめします。
まとめ
この記事では、アメリカで自分で税務申告を準備する日本人の個人事業主・単独所有LLCオーナー向けに、Schedule Cの対象者判定から記入欄の考え方、為替換算、開業費と赤字年の取り扱い、Schedule SEとの接続までを解説してきました。
以下に、この記事のポイントを整理しておきます。
事業形態で決まる、あなたが出すべき申告様式
| あなたの状況 | メインの申告フォーム | 税務上の扱い・補足 |
|---|---|---|
| 個人事業主(法人化なし) | Schedule C | Form 1040に添付。自営業税(Schedule SE)へ接続 |
| 単独所有LLC(課税選択なし) | Schedule C | disregarded entity。法人税申告(Form 1120等)は不要 |
| 夫婦2人所有LLC(コミュニティ財産州) | Schedule C | CA・TX・WA・NV・AZ等。持分に応じて2枚作成も可 |
| 夫婦2人所有LLC(上記以外の州) | Form 1065 | NY・NJ等はパートナーシップ。期限3月15日、各自にSchedule K-1 |
| 他人と共同所有のLLC | Form 1065 | パートナー1人あたり月額でペナルティが計算される |
| Form 2553でS法人を選択済み | Form 1120-S | オーナーは給与を受け取りW-2が発生 |
| Form 8832でC法人課税を選択済み | Form 1120 | 法人として別申告 |
| 住宅・店舗の賃貸収入 | Schedule E | 受動的所得として自営業税の対象外。日常的サービス提供ならSchedule C |
| 農業 | Schedule F | – |
この記事でご紹介した実務上のポイントは以下です。
- 対象者:個人事業主と、法人課税を選択していない単独所有LLC(disregarded entity)。複数所有LLCはForm 1065、S法人選択済みはForm 1120-S、賃貸収入は原則Schedule E
- 構成:Part I売上、Part II経費、Part III売上原価、Part IV車両、Part V雑経費。Line 31の結果がSchedule 1とSchedule SEへ流れる
- 為替:日本からの円建て入金も売上に含める。取引日レートか年平均レートを一貫して使い、換算根拠を記録に残す
- 開業費:初年度の即時控除は原則$5,000まで、残りは15年償却。日本の任意償却とは異なる
- 赤字:自営業税は発生しないが、Social Securityのクレジットも積み上がらない。At-riskルールと超過事業損失の制限に注意
- 含めないもの:オーナーへの引き出し、自営業者健康保険料、退職金拠出(オーナー分)はSchedule Cではなく1040 Schedule 1へ
- 期限:Form 1040と同じ4月15日。Form 4868で10月15日まで延長できるが、納税期限は延長されない
この記事が、米国で自分でSchedule Cを作成している方、また自分の申告が正しいかを確認したい方の助けになれば幸いです。