「アメリカでの経理代行って、結局どこまで頼めるのだろう?」
「記帳だけでなく、給与や税金の申告まで丸投げできるのだろうか?」
こうした疑問を持つ方は少なくないと思います。経理代行の業務範囲は「記帳のみ」から「税務申告との連携まで」まで、いくつかの段階に分かれています。会社の事業規模やスタッフ体制によって必要な範囲が変わってきます。
この記事では、経理代行で依頼できる範囲を大きく5段階に整理し、それぞれの費用イメージと自社に残る作業を具体的に解説していきます。読み終えていただければ、自社にとって最適な経理業務の依頼範囲を判断する材料が手に入るかと思います。
この記事の目次
経理代行に頼める業務範囲の全体像
この章では、経理代行の業務範囲がどのような構造になっているのかを最初に押さえます。全体像をつかんでおくことで、次章以降の各段階の説明が理解しやすくなるからです。
結論からいえば、経理代行の依頼範囲は、大きく5つの段階(レイヤー)で考えると整理しやすいです。下の段階ほど自社の負担が減り、代わりに費用は上がっていきます。
アメリカでの経理代行で業務範囲を検討する際に参考になる5段階は、次のようなイメージです。
なおこの表は、下の段階が上の段階を包み込む構造になっています。たとえばレイヤー4を依頼すれば、給与計算だけでなく、下層レイヤーの記帳・月次決算・売掛金・買掛金の管理もふくめてカバーされるというイメージです。
レイヤー1〜2:記帳と月次決算
この章では、経理代行の入り口となる「記帳のみ」と「月次決算まで」の2段階を解説します。多くの方が最初に検討するのがこの範囲だからです。
レイヤー1:記帳のみ(Bookkeeping)
記帳代行では、何をしてくれるのでしょうか。結論から言えば、日々の取引を会計ソフトに入力し、勘定科目ごとに整理する作業です。
具体的には、次のような作業をおこないます。
- 銀行・クレジットカードの取引データの入力
- 領収書やインボイス(請求書)の仕訳(Journal Entry)
- QuickBooksなどの会計ソフトへの記録
費用の目安は、取引量や依頼先にもよりますが日系会計事務所ですと月$400〜$1,000程度が一般的です。ただし、これはあくまで小規模な事業の相場です。
このレイヤーで自社に残る作業も確認しておきましょう。記帳だけを頼む場合、月次の集計チェック・請求書の発行・支払いの実行・給与計算などは、すべて自社でおこなう必要がある点に注意が必要です。
レイヤー2:月次決算まで(Monthly Closing)
月次決算まで依頼すると、記帳した数字をもとに月ごとの財務諸表を作ってもらえます。具体的には、損益計算書(Profit and Loss Statement)と貸借対照表(Balance Sheet)の作成です。
この段階では、単なる入力にとどまらず、次のような整理までカバーされます。
- 銀行残高との照合(Bank Reconciliation)
- 月次の財務諸表の作成
- 数字の異常値のチェック
費用の目安は月$500〜$1,500程度です。自社に残る作業は、財務諸表を見て経営判断をすること、そして請求・支払い・給与といった実務です。
レイヤー3〜4:売掛金・買掛金の管理と給与計算
この章では、実務の負担が大きく減る「売掛金・買掛金の管理」と「給与計算」の2段階を解説します。ここまで頼めると、経理をほぼ丸投げできる状態に近づくからです。
レイヤー3:売掛金・買掛金の管理(支払・請求管理)まで
売掛金・買掛金の管理とは、Accounts Payable(買掛金・支払管理)とAccounts Receivable(売掛金・請求管理)のことを指します。この段階では、お金の出入りの管理そのものを代行します。
たとえば、次のような作業です。
- 取引先への請求書(Invoice)の発行と入金管理
- 仕入先への支払いスケジュールの管理
- 未回収・未払いの残高チェック
費用は業務量に大きく左右されますが、月次決算とあわせて月$1,000〜$3,000程度が一つの目安です。自社に残る作業は、支払いの最終承認や取引先とのやり取りなど判断がともなう部分に絞られてきます。
レイヤー4:給与計算(Payroll)まで
給与計算まで頼むと、従業員への給与支払いと付随する源泉徴収・雇用税の計算まで任せられます。アメリカでは給与にかかる税務が複雑なため、この部分を外注する事業者は少なくありません。
具体的な内容は次のとおりです。
- 給与計算と支払い(Direct Deposit含む)
- 連邦・州の源泉徴収税(Withholding Tax)の計算と納付
- Form 941(四半期給与税申告)などの提出サポート
費用は、GustoやADPなどの給与サービス利用料を含めて、経理代行料と別に月$50〜$200+従業員1人あたり月$50〜$100程度が加わるイメージです。ここまでくると、経理を「丸投げできる」感覚にかなり近づくかと思います。
レイヤー5:税務申告との連携と法的な線引き
この章では、最後の段階である「税務申告との連携」と、経理代行では越えられない法律上の線引きを解説します。ここを誤解すると、契約後に「思っていたのと違う」となりやすいからです。
レイヤー5:税務申告との連携
税務申告との連携とは、月次で整理した数字を確定申告に使える形で税務担当者に引き継ぐ体制のことです。具体的には、決算数値の確定・調整仕訳・申告用資料の準備などが含まれます。
この段階まで整えると、Form 1120(法人税申告書)やForm 1065(パートナーシップ申告書)の作成がスムーズになります。経理代行と税務申告がひとつの流れでつながるためです。
経理は丸投げできるが、申告書の署名はできない
ここで、必ず知っておいていただきたい線引きがあります。税務申告書の有償での作成・署名ができるのは、PTIN(Preparer Tax Identification Number|税務申告書作成者番号)を持つ資格者だけです。
なぜなら、これはIRS(内国歳入庁)が定めた法的なルールだからです。記帳や月次決算を代行するだけであれば特別な資格は不要ですが、報酬を受けて申告書を作成し署名する行為はPTIN保持者(公認会計士・EA・弁護士など)に限られます。
つまり、経理を丸投げできる範囲と税務申告書に責任を持って署名できる範囲は別物です。誰が申告書に署名できるのかについては、以下の記事もあわせてご確認いただければと思います。
当サイトの見解
ここまで5段階を紹介してきましたが、私たちが実務でおすすめしている考え方をお伝えします。
結論からいえば、最初から全部を丸投げしようとせず、レイヤー2(月次決算まで)から始めることをおすすめしています。なぜなら、いきなり給与や支払いまで外注すると、自社が数字を把握できないまま「ブラックボックス化」してしまうケースが多いからです。
実際にクライアントを数多く見てきた経験から、記帳と月次決算をきちんと外注し、財務諸表を毎月チェックする習慣がある会社は、資金繰りの判断が早く、トラブルも少ない傾向があります。
一方で、従業員が増えて給与計算の負担が重くなってきたら、レイヤー4のPayrollを追加する。このように段階的に範囲を広げていくのが、費用対効果の面でも安心感の面でもバランスが良いと考えています。
なお、経理代行の内容は事業者によって定義が異なります。契約前に「どこまで含まれるのか」を口頭と書面で丁寧に確認しておくことが、後のトラブルを防ぐうえで大切です。
まとめ
この記事では、経理代行をどこまで頼めるのかについて、5段階のレイヤーに分けて解説してきました。
以下に、この記事のポイントを整理しておきます。
この記事が、アメリカで経理代行の依頼範囲を検討している日本人・日系企業の方の助けになれば幸いです。