Beneficial Ownership Information Report(BOIR)とは?報告義務の要件や報告手続きを米国公認会計士が解説

2026.04.09
会社運営・各種届出

この記事を書いた人トム | アメリカの会計士
米国の日系会計事務所にて、会計・税務・労務を中心としたバックオフィス業務と業務効率化のご支援をしています。些細なことでもお気軽にご質問ください。

この記事でわかること


  1. BOIR(Beneficial Ownership Information Report)とは何か
  2. 自社がBOIRの報告対象に該当するかどうかの判断基準
  3. BOIRの報告内容と提出方法
  4. 提出期限・更新ルール・ペナルティの概要
  5. 日系企業・日本人がとくに注意すべき実務上のポイント

「アメリカで会社を設立・運営しているが、BOIR(Beneficial Ownership Information Report)という報告義務があると聞いた」
「自社を通じてアメリカ不動産への投資を行っているが、自社はBOIRの対象になるのか、いつまでに何をすればいいのかわからない」

こうした疑問を持つ方は少なくないと思います。2024年より、アメリカで事業を行う法人や外国法人として米国で事業登録された法人に対して、実質的所有者(Beneficial Owner)の情報をFinCEN(米国財務省・金融犯罪取締ネットワーク)に報告する義務が生じています。米国在住の日本人や日系企業の担当者の方にとっても、決して他人事ではありません。

この記事では、BOIRの概要や報告対象となる法人、報告の手続き、期限・ペナルティについて、順を追って解説していきます。読み終えていただければ、自社がBOIRの報告対象かどうかを判断し、次に何をすべきかが明確になるかと思います。

1. BOIRとは何か?

マネーロンダリングやテロ資金供与に対する取り締まりは、近年、国際的に急速に強化されています。こうした流れを受けて、アメリカでは2024年に企業透明化法(Corporate Transparency Act)が発効され、これにより新たな報告義務が課されることになりました。

BOIR(Beneficial Ownership Information Report)とは、法人の「実質的な所有者・支配者」が誰なのかをFinCENに申告する報告書のことです。匿名の法人を使った不正行為を防ぐことが主な目的であり、アメリカでビジネスを行う米国内外の法人を広く対象としています。

報告書の内容自体はシンプルですが、報告漏れや遅延にはペナルティが伴うため、まずは自社が対象かどうかを早期に確認することが重要になります。

2. どのような法人が報告対象なのか?

報告義務があるのかどうかは、「報告対象となる法人(Reporting Company)に該当するか」と「免除規定に当てはまるか」の2点で判断すると良いかと思います。それぞれについて、以下で解説していきます。

2.1. 報告義務の対象となる法人

BOIRの報告義務は、大きく2種類の法人に適用されます。

  1. アメリカ国内で設立された法人:米国内の州やそれに準じる機関に対して設立書類を提出して設立された法人を指します。具体的には、Corporation、LLC(Disregarded LLCも含む)、Limited Liability Partnership、Business Trustなどが該当します。なお、ほとんどの個人事業主やGeneral Partnershipでは州等に設立書類を提出する必要がないため、BOIRを提出する必要はありません。
  2. アメリカ国外で設立され、米国内で事業登録されている法人:米国外の法律(例:日本の会社法)に基づいて設立されたが、米国のいずれかの州で事業登録(州外法人登録 – Foreign Qualification)を行っている法人を指します。よくある例としては、日本の法人が米国不動産に投資するために米国支店を設置しているケースなどが含まれます。

つまり、日系企業がアメリカに設立した米国子会社(LLCやC-Corp)、また日本親会社の米国支店として登録された法人(Branch)も原則として報告対象となりえます。

2.2. 報告が免除される法人

FinCENは23種類の免除対象を定めており、これらに該当する法人は報告義務が免除されます。代表的なものを挙げると、以下のとおりです。

  • 特定の要件を満たす上場企業
  • 銀行・証券会社・保険会社など金融機関として既に規制・監督を受けている法人
  • 非営利団体
  • Large Operating Company(大規模事業体):従業員数・拠点の有無・売上高の3要件をすべて満たす法人
  • Subsidiary of certain exempt entities:免除対象となる企業の子会社

この中で、日系企業にとって特に重要なのは「Large Operating Company」もしくは「Subsidiary of certain exempt entities」に該当するかという点だと思います。特に「Large Operating Company」の3要件は、具体的に以下のとおりです(すべて満たす必要があります)。

  1. アメリカで20名以上のフルタイム従業員を雇用している
  2. アメリカ国内に物理的なオフィスを有し、米国での事業拠点としている
  3. IRSへ申告した前年の法人所得税申告書において総収入が500万ドルを超える(米国外を源泉とする所得は除外して計算される)

特に進出初期の日系企業の多くは、従業員数や売上規模からみて上記の要件を満たさないことも多く、その場合はBOIRの報告免除主体に該当しないことになります。自社が免除対象に該当するかどうか不明な場合は、専門家に確認することをおすすめします。


BOIRへの対応は、会社設立後に速やかに対応すべき当局への報告義務の一つです。設立から運営開始までに把握すべき手順の全体像については、以下の記事もあわせて参考にしていただければと思います。

3. BOIRにおける報告内容は?

BOIRで報告すべき情報は、(1)報告対象法人の情報(2)実質的所有者(Beneficial Owner)の情報の2種類に分けられます。さらに、2024年1月1日以降に設立または初めて登録された会社は、会社設立者(Company Applicant)の情報についても報告する必要があります。

申告すべき報告対象法人(Reporting Company)の情報

報告対象法人(Reporting Company)に関して報告する主な情報は以下のとおりです。

  • 法人の正式名称
  • 商号・屋号(例:DBA名など)
  • 現在の米国内の主たる事業所住所
  • 設立または事業登録を行った州・管轄地域
  • IRSの納税者番号(EIN)

申告すべき実質的所有者(Beneficial Owner)の情報

実質的所有者(Beneficial Owner)に関して報告する主な情報は以下のとおりです。

  • 氏名 / 生年月日 / 現住所
  • 有効な写真付き本人確認書類およびその画像:米国のパスポート、州発行の運転免許証、州・地方政府発行のIDが優先されます。これらをいずれも持たない場合には外国発行のパスポート(例:日本のパスポート)を代わりに使用することができます。

また、実質的所有者(Beneficial Owner)とは、以下のいずれかに該当する個人を指します。

  • 報告法人の持分(株式・議決権・利益持分など)の25%以上を直接または間接に所有する個人
  • 報告法人を実質的に支配すると考えられる個人:主に、CEOやCFOなどのシニアオフィサーまたは類似の役務を担う役員等が該当します

実質的所有者(Beneficial Owner)については「25%超の株主だけが対象」と誤解されやすいのですが、持分要件を満たさなくても、実質的な支配力を持つ(substantial control over the reporting company)経営者や役員は報告対象になり得ますので、注意が必要です。

会社設立者(Company Applicant)の定義と申告内容

会社設立者(Company Applicant)に関して報告する主な情報は以下のとおりです。

  • 氏名 / 生年月日 / 現住所
  • 有効な写真付き本人確認書類およびその画像:米国のパスポート、州発行の運転免許証、州・地方政府発行のIDが優先されます。これらをいずれも持たない場合には外国発行のパスポート(例:日本のパスポート)を代わりに使用することができます。

また、会社設立者(Company Applicant)とは、法人の設立または事業登録書類を当局に提出した個人のことです。例えば、弁護士事務所が登記申請を代行した場合、その担当者が会社設立者に該当することになります。

4. BOIRの提出期限と更新時のルール

BOIRの提出期限については、会社の設立時期によって初回の期限が異なります。自社の場合はいつが期限になるのか、法人設立の段階で確認しておくことをおすすめします。

4.1. 初回BOIR報告の期限

法人設立・事業登録のタイミングにより、初回の提出期限は以下のように異なります。

  • 2023年12月31日以前に設立・事業登録された法人:2025年1月1日まで
  • 2024年1月1日〜2024年12月31日の間に設立・事業登録された法人:設立・登録完了後90日以内
  • 2025年1月1日以降に設立・事業登録された法人:設立・登録完了後30日以内

また、これまで免除対象だった法人が免除要件を満たさなくなった場合も、その事実が生じた日から30日以内に初回のBOIRを提出する必要があります。

4.2. 更新・訂正報告の期限

初回で申告した内容に変更や訂正がない限り、BOIRについて定期的な報告義務はありません。ただし、例外的に以下のケースでは追加の報告が必要になります。

  • 報告内容に変更が生じた場合:変更が生じた日から30日以内
  • 報告した内容に誤りが含まれていた場合:その誤りに気づいた日、または気づくべきであった日から30日以内

申告した情報に変更・訂正がない限りは一度きりの申告と考えていただいても良いかもしれませんが、経営陣や株主構成等に変更があった場合には都度、更新の報告をする必要があるという点に注意が必要です。

5. BOIRの提出方法とペナルティについて

5.1. 報告書の提出方法

BOIRの提出は、FinCENの公式ウェブサイトからオンラインで行います。郵送やFAXでの提出は原則受け付けられていません。なお、FinCENの公式ウェブサイトを通じて直接提出する分には、Filing Fee等の費用は一切かかりません。FinCENのシステムに直接入力する形式とPDFファイルをアップロードする形式の2通りが用意されています。

5.2. 未提出の場合のペナルティについて

BOIRの報告義務を故意に違反した場合、ペナルティが科される可能性があります。具体的には以下のとおりです。

  • 民事罰(通常のペナルティ):違反が継続している日数に対して1日あたり最高500ドルの罰金(年度によってインフレ調整あり)
  • 刑事罰(稀なケース):最高1万ドルの罰金、または最長2年の懲役(もしくはその両方)

6. 日系企業・日本人がとくに注意すべきポイント

6.1. Disregarded LLCもBOIRの報告対象になる

単独メンバーから構成されるLLC(通称、Single-Member LLC)について、税務上は「Disregarded Entity(連邦所得税の目的上、事業体としての課税を免除される)」として扱われます。一方で、BOIRの報告義務については免除されません。FinCENの定める23種類の報告免除対象に該当しない限りは、Single-Member LLCであってもBOIRの報告対象法人となりますので、注意が必要です。

FinCENの定める報告免除対象法人について、詳しくは以下をご参照ください。

6.2. 持分の間接保有も25%ルールの対象

Beneficial Ownerの25%持分ルールは、直接保有だけでなく間接保有も含みます。たとえば、日本の親会社が米国子会社の100%を保有している場合、親会社の株主のうち25%以上の持分を保有している個人についても、最終的にBeneficial Ownerとして申告が必要になる可能性があります。

グループ内の資本関係を丁寧に整理した上で、誰がBeneficial Ownerに該当するかを精査することをおすすめします。

6.3. 報告書に記載する本人確認書類は原則として米国の身分証が優先される

Beneficial OwnerやCompany Applicantの本人確認書類としては、米国パスポート・米国の運転免許証・州発行のIDが優先されます。これらを保有していない場合にのみ、外国パスポート(日本のパスポートなど)を使用することができます。なお、IDの画像データも提出が求められるため、事前に準備しておくと手続きがスムーズかと思います。

まとめ

この記事では、アメリカで義務化されたBOIR(Beneficial Ownership Information Report)の制度について解説してきました。

以下に、この記事の内容を整理します。

BOIR(Beneficial Ownership Information Report)の全体像と対応ポイント

ステップ
01
制度の概要を把握する
• 2021年制定の企業透明化法(CTA)に基づき、2024年1月1日に発効
• マネーロンダリング・テロ資金供与防止のため、法人の実質的所有者(Beneficial Owner)をFinCENへ申告する義務
→ アメリカに子会社を持つ / もしくはアメリカに支店登録している日系企業・日本人は対象になりうる

ステップ
02
自社が報告義務の対象か確認する
国内報告法人:アメリカ国内で設立したCorporation・LLC・LLPなど
外国報告法人:アメリカ国外で設立されたが米国内で事業登録した法人(例:日本親会社の米国支店など)
免除対象(23種類):上場企業・既存金融機関・非営利団体・Large Operating Company(従業員20名超+米国源泉売上500万ドル超+米国内の事業拠点)など
→ 進出間もない日系企業はLarge Operating Companyの要件を満たさず、免除外になるケースも多い

ステップ
03
報告すべき3種類の情報を把握する
① 報告法人:正式名称・DBA名・主たる事業所住所・設立州・EIN
② 実質的所有者(Beneficial Owner):持分25%以上を保有する個人、または法人を実質的に支配する個人(CEO・CFO・COO等)。氏名・生年月日・住所・本人確認書類を報告
③ 会社設立者(Company Applicant):設立書類を提出・管理した個人。2024年1月1日以前設立の法人は報告不要
→「25%超の株主だけが対象」は誤解。CEOやCFOなどの法人の”実質的な支配者”も報告対象になる

ステップ
04
提出期限・更新ルール・ペナルティを確認し、早期に対応する
• 報告漏れ・遅延にはペナルティが発生するため、自社の対象可否を早期に確認することが重要
• 情報に変更があった場合は速やかな更新の報告が必要
→ 「自社には関係ない」と決めつけず、要件を丁寧に確認しておく

この記事が、BOIRへの対応を検討されている方の助けになれば幸いです。

アメリカの会計士

出身:愛知県 所属会計事務所:日系会計事務所(ニューヨーク・ロサンゼルスにオフィスがございます) 米国公認会計士として、アメリカ現地で日系企業や個人事業主のバックオフィス支援に携わっています。あわせてAIによるデータ分析の修士号を持っており、日々の実務でもAIを最大限に活用しながら、「AIに任せられる部分は任せ、最後の砦は人が担う」という進め方を大切にしています。 アメリカでの起業や会社運営には、日本では聞き慣れない専門用語が多く、特に会計士や税理士の業務は「何をしているのか分かりにくい」領域だと感じています。ご相談をお受けする際には、なるべく難解な言葉を使わず、次に何をすればよいかが明確になるご説明を心がけています。皆様の不安や負担を少しでも軽くし、本業に安心して集中していただける体制づくりに貢献できればと思っております。 会計士や税理士に相談するのは少しハードルが高い——そう感じる方もいらっしゃるかもしれません。そのような方は、まずはこのサイトをご覧いただき、私や会計・税務、そしてAIの実務への活用を、少し身近に感じていただければ嬉しく思います。 アメリカでの経理や確定申告、バックオフィスまわりへのAI活用など、些細なことでもお気軽にお問い合わせください。

あなたへのおすすめ記事

調べたい答えが見つからない場合はお気軽にご質問ください。
匿名で質問する(最短即日回答)
目次