この記事でわかること
- アメリカのチップは従業員の所得として課税され、雇用主にも税務上の義務が生じる
- チップに関して雇用主が負う3つの義務(報告受理・税金の源泉徴収および納付・Form 8027の申告)
- 「チップ」と「Service Charge」の違いと、それぞれの税務処理
- 「FICA Tip Credit」を活用した節税の仕組みと申告方法
「チップは従業員がもらうものだから、雇用主には関係ない」
「 “チップは非課税” とも聞いたことがある。雇用主として本当に何もしなくていいのか」
こうした疑問を持つ方は少なくないかと思います。アメリカで飲食店や美容院などを経営している方なら一度は疑問を抱いたことのあるトピックではないでしょうか。「チップは非課税」という誤解が広まっている一方、実際にはアメリカのチップ課税には明確なルールが存在します。そのルールを知らないまま、雇用主としての義務や節税手段を見落としているケースも少なくないかと思います。
この記事では、チップの税務上の取り扱いや雇用主が負う義務、そして活用できる節税手段まで、雇用主の視点に絞って解説します。
結論:アメリカのチップには税金がかかる
まず結論からいえば、アメリカの税法上、チップは従業員の所得として扱われます。一般的にチップは現金またはクレジットカードを通して支払われますが、いずれの場合もチップは従業員の賃金として税金がかかることになります。
雇用主として認識しておくべき重要な点は、チップが従業員個人の所得であるとしても、Payroll Tax(給与税)の計算・源泉徴収やチップの報告などの雇用主としての義務が発生するという点です。「従業員がもらうチップだから雇用主には関係ない」という誤解には注意が必要です。
「Tip」と「Service Charge」の違い
チップと混同されやすいものとして「Service Charge(サービス・チャージ)」があるかと思います。例えば「8名以上のグループには15%を自動加算」のように、請求書に明記して自動的にお店がチャージする料金です。これらのService Chargeは顧客側に選択の余地がないため、アメリカの税務当局はこれをチップではなく雇用主の売上として扱うと定義しています。つまり、Service Chargeは雇用主の所得として税金がかかることになります。そのため、顧客から受け取ったService Chargeの中から一部を従業員に支払う場合には、「従業員の(通常の)給与」として処理することになります。
- Tip(チップ):顧客が金額も支払の有無も自由に決めて支払う追加料金。チップは従業員の所得とみなされ、雇用主にはPayroll Tax(給与税)の処理や報告義務が生じる。
- Service Charge(サービス料):ホテルのルームサービス料金や飲食店の団体料金など、事業者側が設定・請求する追加料金を指す。これらは雇用主の売上として処理し、例えば一部を従業員へ支払う場合には(通常通り)給与扱いとなる。
チップに関して雇用主が負う3つの義務
このセクションでは、チップに関して雇用主が負う3つの義務を順に解説します。従業員からのチップ報告の受け取りに始まり、FICA税・所得税の処理、そして一部の飲食業に課されるForm 8027の申告義務まで、実務で押さえておくべきポイントを確認していきます。
義務1. 従業員からチップ収入の報告を受ける
従業員は1か月に受け取るチップの合計が$20を超える場合、翌月10日までに雇用主へ報告する義務があります($20未満の場合には雇用主への報告義務はありません)。この従業員による報告はForm 4070(Employee’s Report of Tips to Employer)を用いて行われ、雇用主はこの報告を記録し、給与計算および給与税(Payroll Tax)の処理に反映させる必要があります。
義務2. 税金の源泉徴収および納付
FICA税(ファイカ・タックス)の源泉徴収と納付
FICA Tax(Federal Insurance Contributions Act Tax)とは、Social Security Tax(社会保障税)とMedicare Tax(メディケア・タックス)を合わせた連邦税です。チップは授業員の賃金(Wages)として扱われるため、通常の給与と同様にFICA税の対象となります。
雇用主は従業員負担分を給与から源泉徴収し、雇用主負担分と合わせて納付します。チップに対する雇用主負担分のFICA税は雇用主が自社のコストとして負担するものであり、従業員に転嫁することはできません。
なお、2026年現在の税率は以下のとおりです。
| 税目 | 従業員負担 | 雇用主負担 | 合計 (従業員負担 + 雇用主負担) |
|---|---|---|---|
| Social Security Tax | 6.2% | 6.2% | 12.4% |
| Medicare Tax | 1.45% | 1.45% | 2.9% |
| 合計(FICA Tax) | 7.65% | 7.65% | 15.3% |
また、チップに対する源泉徴収を怠った場合は、未徴収税額に対してペナルティと利息が課される可能性もありますので注意が必要です。
Income Tax(所得税)の源泉徴収と納付
報告されたチップは通常の賃金と合算して所得税の源泉徴収計算に含めます。チップ分に対して別途異なる税率が適用されるわけではなく、給与と合算したGross Pay(税引き前総支給額)に対して従業員のForm W-4の情報をもとに源泉徴収します。
従業員が雇用主に報告したチップは、年末には Form W-2 の Box 1(Wages, tips, other compensation)、Box 5(Medicare wages and tips)、および Box 7(Social Security Tips)に正しく記入する必要があります。
また、チップに対する源泉徴収を怠った場合は、未徴収税額に対してペナルティと利息が課される可能性もありますので注意が必要です。
義務3. Form 8027の申告義務(一部の飲食業のみ)
Form 8027(Employer’s Annual Information Return of Tip Income and Allocated Tips)は、飲食業の雇用主がIRSに提出する年次のチップ収入申告書です。提出期限は毎年2月28日(電子申告の場合は毎年3月31日)となっており、以下の条件をすべて満たす事業者に提出義務があります。
- 飲食・食品サービスの提供が主な業務である
- チップを受け取る従業員が常時勤務している
- 繁忙期を含めた一般的な営業日に10名以上の従業員を雇用している
Form 8027において具体的に報告する必要のある主な項目は、以下のとおりです。
- 雇用主や従業員数の情報
- 年間の売上総額
- クレジットカード経由のチップの合計額
- 従業員が雇用主に報告したチップの合計額
- Allocated Tips(特定条件下で従業員に配分されるチップ)の計算と配分額
IRS(アメリカの税務当局)はこのデータを用いて、実際の売上に対してチップ報告が適正かどうかを精査します。Form 8027の存在を知らずに数年間提出していなかった場合、未提出によるペナルティが積み上がっている可能性があるため注意が必要です。
FICA Tip Creditによる節税
FICA Tip Creditは、雇用主が負担したチップにかかるFICA税を連邦所得税から控除できる制度であり、飲食業を中心に活用できる重要な節税手段と言えます。
FICA Tip Creditの仕組み
たとえば、ある年に従業員Aが総額$10,000のチップを受け取り、その全額が最低賃金を超えるチップに該当する場合、雇用主はそのFICA税負担額 $10,000 × 7.65% = $765 を税額控除として活用することが可能です。「税額控除」は、簡単に言えば支払う税金を直接減らす効果があります。そのため、例えばある年に納める必要のある所得税が$3,000であった場合、$3,000 から $765 の控除が可能で、雇用主として残りの $2,235 だけを税金として支払えば良いということになります。
大した金額ではないように思えるかもしれませんが、もし同じ額のチップを稼ぐ従業員が3名いた場合、単純計算で年間2,000ドル強の節税になる可能性があります。そしてチップを受け取る従業員が多ければ多いほど、節約できる金額も大きくなりますので、雇用主としては確実に利用しておきたい節税制度かと思います。
なお、FICA Tip Credit は Form 8846(Credit for Employer Social Security and Medicare Taxes Paid on Certain Employee Tips)を用いて申告します。以下に公式フォームへのリンクを記載しておきますので、参考にしていただければと思います。
労働法上の「Tip Credit」とは全くの別物
従業員を雇用する上で「Tip Credit」という言葉・制度を耳にしたことがあるかもしれません。ここで注意が必要なのは、労働法上の「Tip Credit」と(上記でご紹介した)税法上の「FICA Tip Credit」は全くの別物だという点です。
- 労働法上の「Tip Credit」:雇用主がチップ収入を最低賃金の一部として計算できる仕組みを指す。例えば、連邦においては最低賃金$7.25のうち最大$5.12をチップで充当可能であるため、最低賃金を満たすには(従業員が十分なチップを受け取っている場合に限り)雇用主は差額の$2.13だけを現金で負担すればよいことになる(州のルールは大きく異なるため要注意)。
- 税法上の「FICA Tip Credit」:上記でご紹介した、チップに対するFICA税の雇用主負担分を連邦税から控除できる節税制度。
労働法上の「Tip Credit」は従業員への支払い賃金の計算に関わる話であり、税法上の「FICA Tip Credit」は税負担の軽減に関わる話です。この2つは混同されることが多いようですので、分けて理解していただくと良いかと思います。
まとめ
この記事では、チップの税務上の取り扱い、雇用主が負う3つの義務、そして活用できる節税手段まで、雇用主の視点に絞って解説してきました。
以下に、この記事の要点を整理しておきます。
※ FICA税率は2026年時点の税率を使用しています。
この記事が、チップの税務処理に不安を感じているオーナー・担当者の方の助けになれば幸いです。