この記事でわかること
- Fビザ留学生でもForm 8843の提出が必要な理由と未提出のリスク
- どのようなケースで日本への帰国後も提出が必要になるのか
- Form 8843の提出期限・提出方法・提出先
- Form 8843の具体的な記入例と記入時のポイント
- 有料の作成ツール(Sprintax・Glacier Tax Prep)の概要と費用の目安
「収入がないのに、アメリカで税務申告が必要なのか?」
「Fビザの留学生は何も提出しなくていいんじゃないの?」
こう思われている方も少なくないのではと思います。実は、Fビザでアメリカに滞在している方は(収入がゼロでも)毎年提出しなければならない書類が一つだけあります。それが「Form 8843」です。
Form 8843は税金の申告書ではなく、アメリカにおける滞在ステータスを証明するフォームです。提出を怠ると将来的なビザ取得や永住権の申請にも影響が及ぶケースがありますので、注意が必要です。
この記事では、Form 8843の提出が必要な理由から記入方法、提出の流れまでをわかりやすく解説していきたいと思います。
1. そもそもなぜ収入がなくても申告が必要?
Form 8843の解説を始める前に、どうして申告が必要なのかについて簡単に触れておきたいと思います。特に、卒業後にアメリカで働きたい方や企業の駐在等で将来的にアメリカに戻ってくる可能性のある方にとっては重要な手続きとなり得ます。
結論として、出さなくても罰則金のようなペナルティはありませんが、Form8843を適切に提出しないことで将来的にOPTやH1-B、永住権(グリーンカード)などのビザ関連の手続きで不利に働く可能性があります。
実はあまり知られていないのではと思うのですが、Fビザ所有者にとってForm 8843の提出は法的な義務であり、将来的に移民・ビザ関連の手続きを行う際には過去の税務コンプライアンス違反を確認されるケースがあります。
詳しくは別の記事で書きたいと思いますが、F-1ビザでアメリカに滞在している人は原則として 「Nonresident Alien(非居住外国人)」 に分類されます。そして、この税務上のステータスを維持するためには、毎年IRS(日本でいう国税庁にあたります)に「私はF-1ビザの学生として滞在しています」 という情報を届け出る必要があります。この届け出のための書類がまさに Form 8843 です。
このフォームを出しておくことで、将来的にOPTや永住権などを申請する際に税務コンプライアンスを守っていたことの証明になります。一方で、もしForm 8843を提出していないと「税務上の義務を果たしていなかった」と判断され、手続きが不利になるリスクがあります。特にトランプ政権下ではビザや移民手続きの厳格化が進められている中で、特に将来的にアメリカで働きたい方や移住を考える方にとっては必ず出しておくべき書類といえます。
2. 具体的に「何を」「いつまでに」提出すればいいのか?
提出するのは至ってシンプルで、Form 8843 (“Statement for Exempt Individuals and Individuals with a Medical Condition”) という1枚の書類に必要事項を記入のうえ手書きで署名をして、IRSの定める場所へ郵送するだけです。
ただ、ここが非常に面倒なポイントなのですが、Form 8843単体の提出には電子申告(e-file)を使うことができないため、作成した書類を印刷してIRSに郵送する必要があります。もしも収入があり、Form 1040-NRという別のフォームをForm 8843とともに提出する場合には電子申告することが可能ですが、Form 8843単体で提出する場合には郵送でしか受け付けないというルールとなっています。
なお、署名(Signature)は(Form 8843のみ提出する場合に限っては)印刷後に手書きで行うのが無難です。近年IRSは電子署名の使用を緩和してきているのですが、過去に私の友人で電子署名を拒否され、再提出を求められた事例がありました。そのため、原則的には手書きで署名しておくのが最も無難かと思います(そもそも今回の場合Form 8843は印刷して郵送する必要があるので、手書きでもそこまで手間ではないかと思います)。
次に提出の締め切りですが、こちらは翌年の6月15日です。「4月15日がタックスリターンの締切」という点は皆さんもどこかで聞いたことがあるかもしれませんが、このForm 8843についてはその2ヶ月後の「6月15日」が提出期限となっています。具体例を挙げると、2024年1月1日から2024年12月31日の期間の申告については、2025年6月15日までに提出する必要があるということになります。
Form 8843のテンプレート(PDF)についてはIRSの公式HPで入手が可能ですので、以下にリンクを貼っておきます。一つ目のリンクは2024年バージョンで、2024年1月1日から2024年12月31日の期間について申告する場合に使用します。Form自体は毎年IRSから最新のものが発行されますので、2025年以降のものが必要な場合は2つ目のリンク先から最新のものをダウンロードしてお使いください。
日本への帰国後も提出が必要なのか?について
アメリカの大学を卒業された後、多くの方が日本へ帰国されるのではないかと思います。結論として、アメリカにFビザで滞在した期間がある年度については帰国後も原則として提出が必要になります。例えば、2026年夏〜秋に卒業し、その後日本へ本帰国 or 米国以外に滞在した場合、2026年度分(1/1〜卒業まで)の申告を2027年の6月15日までに実施する必要があります。
3. Form 8843の記入方法と記入例
Form 8843の基本的な情報を確認できたところで、早速、その具体的な記入方法を実際の記入例とともにみていきましょう。
IRSの公式HPからダウンロードできるForm 8843のテンプレートは通常4ページで、実際に記入するのは最初の2ページです。
実際の記入例と気をつけるべきポイントを以下のリンク先に用意しましたので、よろしければ下記のリンク先を参考にしてみてください。青文字が記入例やコメント、水色の吹き出しが作成時に気をつけるべきポイントになっています。
また、間違いが起きやすそうなポイントとその具体的な記入方法については以下に記載していますので、併せて確認してみてください。
ポイント① 「Part I “General Information”の質問番号4a / 4b」
まず4aについて、こちらには直近3年の各年度にアメリカに滞在した日数を記載します。この「アメリカに滞在した日数」には日本に帰国した期間やその他海外へ渡航した期間は含まれないことになります。こちらの日数は正確に記入しておく必要がありますが、多くの人はそもそも「アメリカに何日間滞在したか」を正確に覚えていないと思います。でも大丈夫です。自身のI-94(Arrival / Departure Record:アメリカ合衆国の出入国記録)を確認することで、過去にアメリカにいつ入国して、いつ出国したのかを正確に知ることができます。ご自身のI-94はパスポート番号さえあれば公式サイトで知ることができますので、以下の記事を参考に確認してみてください。
なお、正確な日数計算は以下のリンク先がおすすめです。アメリカに入国した日と出国した日をそれぞれ入力すれば、その間の日数を自動カウントしてくれます。
次に4bについて、原則、こちらにはタックスリターンの対象年度(記入例では2024年度)の滞在日数と同じ日数を記載します。例外のケースもありますが、Fビザの留学生は原則、このように記載しておけば問題ないです(例外パターンは下記のハイライト箇所をご参照ください)。超厳密には「Substantial Presence Test」と呼ばれる税法上の居住者か非居住者かという判定を行うための日数計算をしたうえで、その日数を記入する必要があります。ただし、この記事を読んでいると思われるFビザ留学生の大部分には「Exempt Individual」という特別なルールが適用され、自動的に「非居住者」扱い、つまり滞在日数の全日数を「Substantial Presence Test」の計算から除外することが可能です。この理由から、4bの質問「Enter the number of days in 2024 you claim you can exclude for purposes of the substantial presence test(Substantial Presence Testの計算から除外する日数を入力してください)」という質問への回答は「2024年の滞在日数の全日数」ということになります。
もしあなたがFビザで留学してから5暦年間(5 Calendar Year)以上が経過している場合には注意が必要です。この場合は「Exempt Individual」という特別なルールの適用外となり、厳密な「Substantial Presence Test」の計算が必要になる可能性があります。このケースではそもそもForm 8843の提出が適切でない場合もありますので、個別に会計士へご相談されることをおすすめします。
ポイント② 「Part III “Students”の質問番号12」
この「Were you exempt as a teacher, trainee, or student for any part of more than 5 calendar years?(Fビザなどの滞在ステータスで税法上「Exempt Individual」として扱われた期間が、合計で5暦年を超えていますか?)」という質問は、まさに上の4bで解説した「Exempt Individual」である期間が5年より長いか?ということを聞かれています。前述のとおり、もしあなたがFビザで留学してから5暦年間(5 Calendar Year)未満しか経過していない場合、「Exempt Individual」となりますので「No」と回答すればOKです。
ポイント③ 署名欄(2ページ目の一番下の欄)
署名(Signature)は(Form 8843のみ提出する場合に限っては)印刷後に手書きで行うのが無難です。近年IRSは電子署名の使用を緩和してきているのですが、過去に私の友人で電子署名を拒否され再提出を求められた事例があったので、手書きで署名しておくのが最も無難だと思います。
4. 有料ツールを使う場合のコストは?
タックスリターンの中では比較的シンプルなFormとも言える Form 8843ですが、必要事項を入力するだけで自動で作成してくれるソフトがいくつかありますので、ご紹介したいと思います。
選択肢 1: sprintax(スプリンタックス)
タックスリターンの作成ソフトウェアの中では珍しい「非居住者向け」の税務申告に焦点を当てているソフトウェアです。創業者も元々は留学生で、留学生や税務上の「非居住者」向けのタックスリターン生成ソフトがないことに目をつけ起業したという、同じ留学生出身としては応援したくなる企業です。
気になるお値段はForm 8843単体の作成料金が$19.95となっています。
料金は変わる可能性がありますので、念のため公式サイトの料金表に飛べるリンクを貼っておきます。最新情報はこちらをご覧ください。
選択肢 2: Glacier Tax Prep
このツールは、フォームの種類によらず一律$49という値段設定になっています。注意事項としては、このソフトウェアは連邦税にしか対応していないため、州税については別のシステムを使うか自分で作成する必要があります(今回のForm 8843作成のみに限って言えばこの点は全く問題ないです)。
こちらのシステムは大学や教育機関によってはディスカウントコードで無料になるところが多いようです。その点、留学生課に聞いてみるといいかもしれません。Form 8843の提出だけに$49は流石に高すぎるので、もしディスカウントなどがない場合は他のツールを検討されるのが良いかと思います。
5. Form 8843の提出方法
5.1. 印刷と手書きの署名
自分で記入、もしくは有料ツールでの作成が終わったらまずは印刷しましょう。サイズはA4またはレターサイズで、白黒・モノクロ印刷でOKです。
印刷ができたら、黒のサインペンもしくはボールペン等で日付を記入のうえ、英字で署名しましょう。その後、郵送の準備に入りますが、その前に控えとしてスマホで書面を撮っておくと安心です。
5.2. 郵送の準備をする
アメリカでタックスリターンを郵送する際には、10号サイズ(#10 Envelope)や6″ x 9″ Envelope、9″ x 12″ Envelopeの封筒がよく使われます。今回はForm 8843を1枚提出するだけですので、10号サイズの封筒で十分です。封筒はTargetやWalmartなどの量販店(2〜3ドル程度で複数枚入りのパッケージを購入可能)や USPS(日本でいう、郵便局)や FedExなどでは1枚単位でその場で購入できます。手元に封筒がない場合でもUSPS等でその場で購入・投函できますが、Shippingのラベルを自動発行してくれない場所では手書きで宛名を書く必要がありますので、ボールペン等の書くものを持参した方が良いです。
郵送については以下に詳しくまとめていますので、興味のある方はこちらをご覧ください。
5.2. 所定の提出先に郵送する
タックスリターンを郵送する場合の宛先は毎年変わる可能性がありますが、2024年は以下の提出先でした。提出先はForm 8843の3ページ目の「When and Where To File」という欄に記載がありますので、毎年最新版のForm 8843のこの欄を確認しておくのが安全です。
2024年度の郵送宛先:Department of the Treasury, Internal Revenue Service Center, Austin, TX 73301-0215 by the due date (including extensions) for filing Form 1040-NR.
なお、締切は翌年6月15日必着です。
6. よくある質問
Q. 日本でのアルバイト収入は関係ありますか?
→ A. ありません。日本で得た収入はアメリカ課税の対象外です。なお、アメリカ国籍や永住権をお持ちの方は申告の対象になり得ますので、詳細は会計士にご相談されることをお勧めします。
Q. 渡米していない(オンライン授業のみ)場合も必要?
→ A. 米国内に滞在していない場合、確定申告は不要です。
Q. 期限を過ぎたらどうなるの?去年出し忘れたForm 8843は今年になって提出可能?
→ A. 2026年時点ではペナルティはありません。気づいた時点で提出されることをおすすめします。
おわりに
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
Form 8843は留学生にとって提出義務があるにもかかわらず、意外と知られていないフォームです。実際、私自身も留学当初は「収入がないのに提出が必要なの?」と不思議に思っていましたし、周りの友人も提出していないケースが多々ありました。
この記事でお伝えしたとおり、税務コンプライアンスは将来のOPTやビザ申請、移民関連の手続きにも影響し得る大事なポイントです。「知らなかった…」というだけで不利になるのはもったいないので、ぜひ同じ留学生のご友人にも知らせてあげてください。
この記事が、アメリカ留学生の皆さんのお役に立てれば幸いです。