この記事でわかること
- アメリカの飲食店経営にかかわる主な税金の種類と全体像
- Sales Tax(売上税)の申告で注意すべきポイント
- チップの税務処理で雇用主が注意すべきポイント
- 正しい税申告につながる3つの経理ポイント(売上の記録管理・見落とされがちな経費の把握・帳簿書類の保管)
「アメリカの飲食店経営にかかる税金にはどんな種類があるの?」
「日々の経理、何をどこまでやっておけばいいの?」
こうした疑問を持つ方は少なくないと思います。アメリカで飲食店を経営する日本人・日系人オーナーにとって、日々の経理処理や税務申告は開業後もずっとついてまわる悩みのひとつかと思います。
この記事では、アメリカでの飲食店経営にかかわる主な税金と概要を整理したうえで、正しい申告につながる経理処理のポイントを解説していきます。
1. アメリカの飲食店経営にかかる税金の種類
まず最初に、アメリカの飲食店経営に関わる税金の全体像を整理します。主にアメリカの法人にかかってくる税金は、連邦(Federal)・州(State)・地方(Local)の3層構造となっています。そして、それぞれの層で課される税金の種類は異なり、法人所得税やSales Tax(売上税)、財産税、Payroll Tax(給与税)などの複数の税金が組み合わさる形です。
具体的に、アメリカの飲食店・レストランの経営では主に以下の5つの税金を申告・納付する必要があります。
- 連邦レベルでの法人所得税(Federal Corporate Income Tax)
- 州レベルでの法人所得税(State Corporate Income Tax)
- 州・郡・市レベルでの売上税(Sales Tax)
- 従業員を雇用する場合にかかる税金(Payroll Tax / Employment Tax)
- 財産税(Property Tax)
以下、それぞれについて概要を簡単にご紹介します。
連邦レベルでの法人所得税(Federal Corporate Income Tax)
アメリカで事業を行う法人が最初に意識すべきなのが、連邦法人所得税(Federal Corporate Income Tax)です。S CorporationやLLCなどの一部の事業形態でパススルー課税を選択しない限り、アメリカ国内のいずれの法人も申告および納税を行う必要があります。
2026年時点での税率は一律 21%となっており、企業の税負担において比較的大きな割合を占めています。
州レベルでの法人所得税(State Corporate Income Tax)
連邦法人所得税に加えて、多くの州では独自の州法人所得税(State Corporate Income Tax)が課されます。税率や税額の計算方法は州ごとに異なるため、どの州で事業を行うかによって税負担が大きく変わってきます。
なお、州レベルの法人所得税に加えて、ニューヨーク市のように一部の都市・郡が独自の法人所得税を課しているケースもあります。実務上はLocal Corporate Income Tax(ローカルレベルでの法人所得税)と総称されますが、事業を行う地域によってはこのローカルレベルの申告・納付も必要となるため、申告義務の要件を確認しておく必要があります。
州・郡・市レベルでの売上税(Sales Tax)
アメリカには、日本の消費税に対応する税金や付加価値税(VAT:Value Added Tax)は存在しません。その代わりにSales Tax(売上税)と呼ばれる州・郡(County)・市レベルの税金が設けられています。Sales Tax(セールスタックス)は、商品やサービスを購入した最終消費者に課される税金の一つです。日本の消費税に近い概念ですが、主には「最終消費者への販売時(小売)にのみ課税される」という点で大きな違いがあります。
Sales Taxの仕組みや登録・申告の流れについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご参照ください。
売上税のポイント:「店内飲食とテイクアウトで税率が変わるケースがある」
アメリカでの飲食店経営で特に注意が必要なのが、「店内飲食(Dine-in)」か「テイクアウト(To-go)」かによって売上税(Sales Tax)の取り扱いが異なる州があることです。
たとえばカリフォルニア州では、店内飲食はSales Taxの課税対象ですが、テイクアウトの食品は原則として非課税とされています。ただし、温かい調理済みの食品はテイクアウトでも課税対象になります。ニューヨーク州においても、テイクアウトの食料品は原則として非課税ですが、レストランで提供されるような加熱済みの食品(Meals)は店内・テイクアウトを問わず課税対象となります。このように、Sales Tax(売上税)の課税判定には州ごとに非常に細かいルールが存在します。
こうした州ごとの違いを正確に把握せず、「すべての売上に同じ税率をかけている」「テイクアウトも課税しているが本当は非課税だった」といった処理ミスはよくあるケースなのかと思います。申告額が実際と異なる場合にはSales Taxの過少申告として追徴課税・ペナルティの対象になりますので、注意が必要です。
また実務上、州ごとに異なる税率や申告要件に対応するためには適切なPOSシステムの設定が非常に重要になります。Sales Taxの税率や課税対象となる項目は州によって変更されることがあるため、最新の情報を基にPOSシステムの設定を適切に管理していく必要があります。
従業員を雇用する場合にかかる税金(Payroll Tax / Employment Tax)
従業員を雇用する法人には、給与に関連した複数の源泉徴収義務および会社負担分の納税義務が発生します。この「従業員を雇用する場合にかかる税金」は、総称して「Payroll Tax」または「Employment Tax」と呼ばれています。
アメリカのPayroll Tax(ペイロールタックス)には主に以下のような種類があります。
- 連邦所得税の源泉徴収(Federal Income Tax Withholding)
- 州所得税の源泉徴収(State Income Tax Withholding)
- 市・郡の所得税の源泉徴収(Local Income Tax Withholding)
- 社会保障税(Social Security Tax)
- メディケア税(Medicare Tax)
- 連邦失業保険税(FUTA)
- 州失業保険税(SUTA / SUI)
Payroll Taxの各項目の詳細や実務上の注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。
給与税のポイント:「チップの税務処理には落とし穴が多い」
飲食店において特に注意が必要なのがチップの税務処理です。
チップの税務処理は、一見シンプルに見えて実務上の落とし穴が多い領域かと思います。特に前提として押さえておきたいのは、チップは従業員の所得であり、通常の給与と同様にFICA税および(従業員の)所得税の源泉徴収対象になるという点です。なんとなく「チップは従業員がもらうものだから、雇用主には関係ない」と思われがちですが、処理を放置すると源泉徴収漏れによるペナルティと延滞利息が積み上がってしまうリスクがあります。
以下の記事では、チップの税務処理に関する義務や節税手段を雇用主の視点から解説していますので、ご参考になれば幸いです。
Property Tax(財産税)
アメリカのProperty Tax(財産税)は州・地方レベルで課される税金です。州・郡によってルールが大きく異なりますが、大きく以下の2つに分類されます。
- Real Property Tax(不動産税):その名の通り、不動産(土地・建物)に課税される税金です。地域により異なるのですが、通常は年に1~2回の不動産税の支払いが必要になります。
- Personal Property Tax(動産税):事業に使用する「動産」に課税される税金です。主に、機械や設備、備品などが対象になります。地域によっては専用のフォームとともに自己申告する必要があります。
2. 正しい税申告に向けた3つの経理ポイント
税金を正しく申告するためには、日頃の正しい経理処理が欠かせません。このセクションでは、飲食店の経営において特に押さえておきたい経理のポイントを3つに絞って解説したいと思います。
ポイント1. 売上を漏れなく記録する
キャッシュレス化が進むアメリカにおいても、飲食店は現金売上が発生しやすい業種のひとつです。現金での売上はクレジットカードやデジタル決済と異なり、記録が自動的に残りません。そのため、毎日の営業終了後にPOS内の現金売上データと実際の現金残高を照合し、大きなズレがないかを確認することが重要になります。
売上の記録管理をシンプルにするうえで最も有効なのは、やはりキャッシュレス決済の比率を高めることだと思います。キャッシュレスの場合には決済記録が自動的に残るため、管理の手間も減り、記録の正確性も上がります。
なお、話は逸れますが、現実的には決済手段をキャッシュレスだけにすることにはリスクもあります。例えば、クレジット決済システムに障害が発生した際に決済手段がなくなってしまったり、クレジットカードを持たない顧客層を取り逃してしまったりする可能性があります。こうした側面を踏まえた現実的な方法としては、キャッシュレス化を進めて売上管理を効率化しつつ、現金決済に対応できる体制も維持しておくのが良いかと思います。
ポイント2. 経費として落とせるものを正しく理解する
飲食店の経営において、家賃・食材費・人件費が経費になることはご存知の方がほとんどだと思います。一方で、以下のような経費は見落とされがちです。
- 会食費(Meals)
取引先との食事や商談を兼ねた会食は、原則として費用の50%を経費として控除できます。ただし、「誰と」「何の目的で」食事をしたかが説明できる状態にしておくことが重要です。とても面倒ではありますが、領収書に加えて、同席者の名前と商談の内容をメモとして残しておくと税務調査が入った際にも安心です。 - 開業費(Start-up Costs)
物件探しやメニュー開発、内装工事の調査費用など、開業前に支出した費用も一定額まで初年度に経費として控除できます。「開業前だから経費にならない」と思い込んで見逃しているケースが少なくありませんので、開業前にかかった費用は全て記録しておくことをおすすめします。 - 設備投資の費用化
厨房機器や冷蔵設備などを購入した際、通常は数年かけて減価償却しますが、特定の税務上のルール(Section 179やボーナス償却)を活用すると購入年度に一括で費用計上できる場合があります。利益が出た年に設備投資を行うことで大きく節税できる可能性がありますので、詳しい適用条件などは会計士にご相談されると良いかと思います。
「これは経費になるのだろうか」と判断に迷った際には、その都度で会計士に確認されることをおすすめします。
ポイント3. 日頃の経理記録を最低7年分は整備・保管しておく
実は、飲食業はIRSや州の税務当局の調査が入りやすい業種のひとつです。現金売上が多く、記録が不透明になりやすいことやチップの申告漏れが起きやすいことなどが主な理由として挙げられています。
税務調査で重要なのは、「裏付けとなる記録が残っているかどうか」です。帳簿や裏付けとなる資料がきちんと整備されていれば、たとえ調査が入ったとしても証拠のある事実に基づいて対応することができます。もし申告内容を裏付ける資料が不足していると判断された場合には、当局は推定課税(Estimation Method)と呼ばれる方法で(業界平均の利益率などから)所得を推定し、当局の裁量で課税額が決定されてしまうというリスクがあります。
飲食店として日頃から整備しておくべき主な記録は以下のとおりです。
- 日次の売上記録(POSから出力されるレポートなど)
- 現金取引の日次照合記録
- 食材・飲料の仕入れ請求書・領収書
- 従業員のチップ申告記録
- チップを含む給与計算の記録
- 店舗物件や厨房設備などのリース契約書類
- 日頃使っている銀行口座の明細
通常の場合、IRSは申告から3年以内に税務調査を行います。これは税務申告の内容に対する時効が3年で成立するためです。ただし、申告漏れが大きいと判断された場合にはこの時効は6年に延長されます。そのため、記録・書類については少なくとも7年間は保管されることをおすすめします。
まとめ
この記事では、アメリカでの飲食店経営にかかわる主な税金と概要を整理したうえで、正しい申告につながる経理対応のポイントを解説してきました。
以下に、この記事のポイントを整理しておきます。
- アメリカの飲食店経営にかかる税金は連邦・州・地方の3層構造で、法人所得税・Sales Tax・Payroll Tax・Property Taxなど複数の税金が課される
- 売上はキャッシュレス化を進めつつ、現金売上も日次で照合・記録することが重要
- 会食費・開業費用・設備投資など、見落とされがちな経費も正しく把握することで正しい節税につながる
- 飲食業はIRSの税務調査が入りやすい業種であり、帳簿や証拠書類は最低7年間保管しておくことが望ましい
この記事が、アメリカで飲食店を経営している方、または開業を検討している方の助けになれば幸いです。