「Payroll Tax(ペイロールタックス)とは何か?」
「雇用主が負担する給与関係の税金があると聞いたが、具体的にどれか?」
こうした疑問を持つ方は少なくないと思います。日本と同様、アメリカでも従業員に給与を支払う際には複数の税金・保険料を源泉徴収(Withholding)し、政府や保険会社に納付する義務があります。注意が必要なのは、雇用主自身が別途負担しなければならない税金も存在することです。支払い遅延に伴うペナルティや延滞利息が発生するリスクもありますので、まずはPayroll Taxの全体像を整理いただけると良いかと思います。
この記事では、アメリカのPayroll Tax(ペイロールタックス)の意味や主要な項目、実務のポイントについて解説していきます。
1. Payroll Taxとは何か?
Payroll Taxとは、従業員の給与に基づいて計算・徴収される税金や保険料の総称です。Employment Taxと呼ばれることもあり、日本語では総じて「給与税」と訳されることが多いようです。
州によってはState Disability Insurance(州障害保険)などの(一見するとTaxではない)保険料も含まれてきますが、給与から控除されるという点でPayroll TaxおよびEmployment Taxを構成する一部と見做されています。
Payroll Taxは大きく2種類に分けられます。
- 従業員負担分(Withholding):雇用主が従業員の給与から差し引き、従業員の代わりに政府・保険会社へ納付するもの
- 雇用主負担分(Employer’s Share):従業員からの源泉徴収とは別に、雇用者が別途納付するもの
例えば、従業員に支払う給与が月$10,000だとしても、従業員が実際に受け取る手取りの金額はこれより少なくなります。この差額が源泉徴収分です。そして雇用主はこの源泉徴収額の納付義務を負うだけなく、日本の社会保険料に相当するSocial Security Tax(社会保障税)およびMedicare Tax(メディケア・タックス)の雇用主負担分やUnemployment Tax(失業保険税)などを追加で負担する必要があります。
Payroll Taxとして雇用者が源泉徴収したり直接負担したりする項目は、主に以下の9つです。
- Federal Income Tax(連邦所得税)
- State Income Tax(州所得税)
- Local Income Tax(地方所得税)
- Social Security Tax(社会保障税)
- Medicare Tax(メディケア・タックス)
- SDI(State Disability Insurance:州障害保険)
- FLI(Family Leave Insurance:家族休暇保険)
-
Federal Unemployment Tax(連邦失業保険税)
- State Unemployment Tax(州失業保険税)
なお、Payroll Taxはアメリカで法人を運営する際にかかる税金の一つです。法人所得税やSales Tax(売上税)など、他の税金も含めた全体像を把握したい方は、以下の記事もあわせて参考にしていただければと思います。
2. 従業員給与から源泉徴収が必要な項目
このセクションでは、前のセクションでご紹介した9つを「従業員給与から源泉徴収が必要な項目」と「源泉徴収は必要ないが、雇用主が別途負担する項目」に分けて解説していきます。
2.1 Federal Income Tax(連邦所得税)
Federal Income Taxは、連邦政府(IRS)に対して納める所得税です。この所得税はあくまで従業員個人にかかってくる所得税ですので、会社として納付する法人所得税とは別物です。
税率は累進課税で、収入が高いほど課される最高税率が上がる仕組みになっています。2025年時点では、課税所得に応じて10%から37%までの7段階の税率が適用されます。
各従業員に対していくらの源泉徴収が必要かという点については、それぞれの従業員が入社時に提出するForm W-4(Employee’s Withholding Certificate)の申告内容をもとに計算します。主に、婚姻状況や扶養する家族の人数、追加控除の申告によって源泉徴収額は変わってきます。
雇用主はこの源泉徴収額の計算を正確に行い、徴収したお金を定期的にIRSへ納付する必要があります。
2.2 State Income Tax(州所得税)
State Income Taxは、従業員が居住・就労する州に対して納める所得税です。税率や計算方法、提出すべき書類は州によって異なるため、州ごとに確認が必要になります。
所得税を課税している州では州独自の源泉徴収フォーム(連邦所得税のForm W-4に相当するもの)を従業員に記入してもらい、各州へ提出する必要があります。連邦所得税と同様に、こちらのフォームの内容をもとに給与から源泉徴収する金額を計算することになります。
なお、州によっては所得税が存在しないところもあります。2025年時点で州所得税が課されない州は以下のとおりです。
- アラスカ州
- フロリダ州
- ネバダ州
- ニューハンプシャー州
- サウスダコタ州
- テネシー州
- テキサス州
- ワシントン州
- ワイオミング州
2.3 Local Income Tax(地方所得税)
Local Income Taxは、郡(County)や市(City)が独自に課す所得税です。すべての自治体に存在するわけではなく、課税する自治体によって税率や計算方法が異なります。
代表的な例としてニューヨーク市(New York City)が挙げられます。具体的には、5つの行政区(Boroughs)であるBronx、Brooklyn、Manhattan、Queens、Staten Islandのいずれかにその従業員が居住している場合にのみ、Local Income Taxが課されます。たとえニューヨーク州内に住んでいたとしても、ニューヨーク市外に住んでいればLocal Tax(New York City Tax)はかかりません。またニューヨーク市で働いていたとしても、住居がニューヨーク市外であればLocal Tax(New York City Tax)を払う義務はありません。
他にも、ペンシルバニア州の各都市やオハイオ州の一部の市などでLocal Income Taxが課されるケースがあります。
雇用主は事業所や従業員の居住地に応じて、Local Income Taxの課税有無を確認したうえで対応する必要があります。
2.4 Social Security Tax(社会保障税)
Social Security TaxはFICA Tax(Federal Insurance Contributions Act | ファイカ・タックス)の一部で、日本の社会保険料に相当します。税率は従業員・雇用主それぞれ6.2%(合計12.4%)となっており、労使折半で負担することになっています。そのため、従業員負担分(6.2%)は給与から源泉徴収し、同額の雇用主負担分(6.2%)は雇用主が別途納付することになります。
2.5 Medicare Tax(メディケア・タックス)
65歳以上の高齢者と障害者向けの公的医療保険制度への拠出で、こちらもSocial Security Taxと同じくFICA Taxの一部であり、日本の社会保険料に相当します。税率は従業員と雇用者がそれぞれ給与の1.45%(合計2.9%)を労使折半で負担することになっています。そのため、従業員負担分(1.45%)は給与から源泉徴収し、同額の雇用主負担分(1.45%)は雇用主が別途納付することになります。
2.6 SDI(State Disability Insurance:州障害保険)
SDI(State Disability Insurance)は、仕事と無関係なケガや病気、妊娠、出産などによって一時的に働けなくなった場合に、給付金が支払われる保険制度になります。2025年時点で加入が義務付けられている代表的な州は、以下の通りです。
- カリフォルニア州
- ニューヨーク州
- ニュージャージー州
- ハワイ州
- ロードアイランド州
SDIは税金ではなく保険に近い性質で、州が認可した保険会社との契約を通じて納付する形となります。そのため、一般的には保険会社からの請求に従って支払いを行うことになります。
2.7 FLI(Family Leave Insurance:家族休暇保険)
FLI(Family Leave Insurance)は、子どもの誕生や養子縁組、家族の介護などで休業が必要になった場合に給付を受けることができる制度です。SDIとは異なり、FLIは自分自身の疾病や怪我ではなく、家族のケアを理由とした休業を対象としています。
2025年時点で加入が義務付けられている代表的な州(地区)は、以下の通りです。
- カリフォルニア州
- コネチカット州
- マサチューセッツ州
- ニュージャージー州
- ロードアイランド州
- ワシントン州
- コロラド州
- デラウェア州
- メイン州
- メリーランド州
- ミネソタ州
- オレゴン州
- コロンビア特別区
FLIは税金ではなく保険に近い性質で、州が認可した保険会社との契約を通じて納付する形となります。そのため、SDIと同様に保険会社経由での支払いが一般的です。
3. 雇用主が別途負担する項目
源泉徴収とは別に、雇用主自身が自社負担として納付しなければならない税金があります。上記でご紹介したSocial Security TaxとMedicare Taxの雇用主負担分に加え、Unemployment Tax(失業保険税)が代表的なものになります。
3.1 Federal Unemployment Tax(連邦失業保険税)
Federal Unemployment Tax(FUTA)は、FUTA法(Federal Unemployment Tax Act)に基づく税金です。全額が雇用主負担であり、従業員の給与からは差し引かれません。
標準税率は各従業員の年間給与の最初の$7,000に対して6.0%です。ただし、州の失業保険(SUTA)を適切に納付している雇用主は最大5.4%のクレジットを受けられるため、実質の負担税率は0.6%となる場合がほとんどです。(いずれも2025年時点の情報)
3.2 State Unemployment Tax(州失業保険税)
State Unemployment Tax(SUTA / SUI)は、州法に基づく失業保険税です。失業給付は基本的に州から支払われるため、その財源を雇用主が拠出する仕組みとなっています。
税率は州ごとに異なり、さらに雇用主によっても変わります。これは、その雇用主から解雇された元従業員が実際に失業給付を受け取った実績に応じて税率が増減する仕組みとなっています。そのため、実績データのない新規事業者には州が定める標準レート(New Employer Rate)が適用されることが一般的です。税率や申告時期はすべて州法に従うため、事業所が所在する州当局へ確認されることをおすすめします。
4. 雇用主が実務で注意すべきポイント
このセクションでは、Payroll Taxに対応する上で注意しておくべきポイントを整理したいと思います。
4.1 Independent ContractorとEmployeeの区別
Payroll Taxの源泉徴収義務が生じるのは、あくまで自社の「Employee(従業員)」に対する給与です。外部の業務委託先(Independent Contractor)への報酬については基本的に源泉徴収の義務はありません。
ただし、実態として従業員に近い働き方をしているにもかかわらずIndependent Contractorとして扱うと、IRSや州当局から「Worker Misclassification(労働者の誤分類)」と判断されるリスクがあります。この場合、未納付のPayroll Taxと利子・ペナルティをまとめて追徴される可能性もあります。労働形態の分類は慎重に判断されることをおすすめします。
4.2 Form W-4の収集と管理
連邦所得税の源泉徴収額は、従業員が記入・提出するForm W-4の内容に依存します。従業員の採用時には必ずForm W-4を収集し、情報を記録しておくことが重要です。
なお、従業員は結婚や離婚、扶養家族の変更などのライフイベントがあった時にいつでもW-4を更新して提出することができます。雇用主側は更新されたForm W-4の内容を速やかに源泉徴収計算に反映させる必要があります。
4.3 給与計算システムの活用
この記事で見てきた各税項目の税額計算や申告、納付をすべて手動で行うことは、(特に従業員の数が増えてくると)手間や工数の観点で大きな負担になります。給与計算サービスとしてADPやGustoなどを利用すると、源泉徴収額の計算や納付を一括して対応することもできます。
もし社内に給与計算の経験者がいない場合や複数州に従業員が在籍する場合には、外部委託にかかるコストも踏まえつつ、給与計算サービスの導入や会計士等の専門家への業務委託を検討されると良いかと思います。
まとめ
この記事では、アメリカのPayroll Tax(ペイロールタックス)の意味や主要な項目、実務のポイントについて解説してきました。
以下に、この記事の内容を整理しておきます。
※ “✔” = 負担あり ”―” = 負担なし
この記事が、アメリカで給与計算業務を担当される方や経理担当者の助けになれば幸いです。