日米租税条約における利子・配当・使用料に係る源泉税を米国公認会計士がわかりやすく解説

2026.05.23
税務・確定申告

この記事を書いた人トム | アメリカの会計士
米国の日系会計事務所にて、会計・税務・労務を中心としたバックオフィス業務と業務効率化のご支援をしています。些細なことでもお気軽にご質問ください。

「アメリカの取引先からロイヤリティを受け取ったら、30%も源泉徴収されてしまった」
「租税条約を使えば税金が減ると聞いたが、具体的に何をすればよいのかわからない」

こうしたお悩みをお持ちの方は多いのではないでしょうか。米国から利子・配当・使用料を受け取る日本法人にとって、米国の国内法が定める「30%の源泉所得税」は見逃せない問題です。何も手続きをしなければ、受け取るべき金額の7割しか日本法人の手元には残らないためです。

この問題には明確な解決策があります。「日米租税条約」を正しく活用することで、利子・使用料は原則免税(0%)、配当も株式保有割合に応じて大幅に軽減できることをご存じでしょうか。

この記事では、日米租税条約による利子・配当・使用料それぞれの具体的な軽減税率と条約特典を受けるための要件、条約適用のために準備すべき書類と手続きについて解説していきます。

1. アメリカの源泉徴収の仕組み

日米租税条約の中身のご紹介をする前に、その土台となる米国の源泉徴収制度について触れておきたいと思います。日米租税条約はあくまで国内法の原則に対する「特例」として機能するためです。このセクションでは、「どのような所得が源泉徴収の対象となり、誰が徴収義務を負うのか」という概要を整理しておきます。

源泉徴収の対象

アメリカの源泉徴収制度は特定の所得を対象としています。この対象となる所得を一般に「FDAP所得」と呼びます。これは直訳すると「固定的、確定的、年次または定期的な所得」となりますが、要するに受動的な投資から生じる所得とご理解いただければ良いかと思います。

ご参考に、IRSはFDAP所得の代表例として以下のものを挙げています。

  • 利子 (Interest)
  • 配当 (Dividends)
  • 使用料 (Royalties)
  • 賃貸料 (Rents)
  • 年金 (Pensions and annuities)

誰が源泉徴収の義務を負うのか?

米国を源泉とするFDAP所得を米国外の法人へ支払う場合、米国の国内法が定める源泉徴収税率は一律30%とされています。この税金を徴収し、IRSに納付する法的な責任を負うのが米国内の支払者である源泉徴収義務者(Withholding Agent)です。

源泉徴収義務者の責任は非常に重く、たとえ支払先の外国法人が租税条約上の特典を受ける資格を持っていたとしても、適切な証明書類が提出されない限りは30%の税率で源泉徴収する義務があります。もし源泉徴収を怠った場合、その支払者自身が未納分の税金および罰則を負担するリスクを負うことになります。

なぜアメリカの取引相手が「フォームW-8BEN-E」といった書類の提出を厳格に求めてくるのか、疑問に思ったことはないでしょうか。その背景にはこのような厳格な法的義務と彼らにとっても小さくないコンプライアンスリスクが存在しています。さらに、支払いの性質が米国源泉のFDAP所得なのかどうか判断できない場合、源泉徴収義務者はそれが米国源泉の課税対象所得であると推定して30%の源泉徴収を行わなければならないという規則もあります。

したがって、支払いを受ける側が条約適用のための手続きを能動的に進めない限りにおいては、30%という高い税率が自動的に適用されてしまうというのが原則ルールとなっています。

2. 日米租税条約における利子・配当・使用料に係る源泉税

このセクションでは、日米間の取引で特に重要な「配当」「利子」「使用料」に関して条約が定める具体的な源泉税率を解説していきます。

配当の支払いに対する軽減税率(日米租税条約 第10条)

例えば米国子会社から日本の親会社へ支払われる配当については、両社の資本関係に応じて段階的な源泉徴収税率が設定されています。

まず、もっとも有利な「免税(0%)」が適用されるのは、日本の親会社が米国子会社の議決権付株式の50%超を、配当の支払義務が確定する日を末日とする6ヶ月間継続して所有している場合です。この場合、米国での源泉徴収は完全に免除されることになります。補足ですが、従来必要とされていた12ヶ月以上の保有期間は2019年の改正議定書によって6ヶ月以上に短縮され、より利用しやすい制度となりました。

次に、免税の要件は満たさないものの日本の法人が米国子会社の議決権付株式を10%以上保有している場合には、源泉徴収税率が5%に軽減されます。

一方、上記のいずれの条件も満たさない、いわゆるポートフォリオ投資(例:10%未満の出資による一般的な上場株式投資)に対する配当には10%の源泉税が課されます。例えば一般的な個人投資家がアメリカ株からの配当を受け取る場合、ほとんどの場合で10%の源泉徴収が行われていると思います。

利子の支払いに対する免税(日米租税条約 第11条)

米国法人から日本の法人へ支払われる利子については、日米租税条約により原則として米国での源泉徴収が免除されるという非常に有利な取り扱いが認められています。より具体的には、日本の居住者(法人を含む)が受益者となる米国で発生した利子に対して、通常課される30%の源泉税が免除されることになります。

適用されるケースは稀だと思いますが、例外も存在します。支払者の利益や資産価値の変動などに応じて金額が決定される「利益連動型利子(contingent interest)」については免税の対象とはならず、10%の限度税率が適用される場合があります。これは、実質的には配当に近い性質を持つ支払いが「利子」として偽装されることによる租税回避を防ぐための規定となっています。

使用料(ロイヤルティ)の支払いに対する免税(日米租税条約 第12条)

技術やブランドなどの無形資産の使用に対して支払われる使用料(ロイヤルティ)についても、日米租税条約では米国での源泉課税を免除する規定を設けています。より具体的には、日本の居住者が受益者となる米国で発生した使用料に対して、通常課される30%の源泉税が免除されることになります。

なお、ここでいう「使用料」とは文学的・芸術的・科学的著作物(映画フィルムや放送用テープを含む)の著作権、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式または秘密工程の使用、あるいはその使用権に対して支払われる対価を含みます。

3. 日米租税条約の適用を受けるための要件

前のセクションでご紹介した軽減税率や免税措置は、残念ながら誰でも無条件に享受できるというわけではありません。租税条約には、条約を不当に利用して税金を回避しようとする行為を防ぐためのルールが存在します。それが、LOB条項と呼ばれるルールです。このセクションでは、LOB条項の概要と条約の適用を受けるための要件である「Qualified Resident(適格居住者)」について解説していきます。

LOB条項(特典制限条項)とは?

LOB条項が設けられている最大の理由は、「条約漁り(トリーティショッピング)」を防止するためです。条約漁りとは、日米いずれの国の居住者でもない第三国の居住者が日米租税条約の特典(例えば、源泉税の免除)を得るためだけに、日本や米国に名目上の会社(ペーパーカンパニー)を設立してその会社を通じて投資を行うといった租税回避行為を指します。

もしLOB条項がなければ、例えばタックスヘイブンに拠点を置く投資家が日本にペーパーカンパニーを設立し、その会社を経由して米国に投資することで、本来であれば課されるべき30%の源泉税を不当に免れることが可能になってしまいます。このような条約の濫用を防ぐために定められたルールが日米租税条約 第22条に規定されている「LOB条項」です。

言い換えれば、条約の特典を申請する日本法人はこのLOB条項の要件をクリアし、自らが日本の「適格居住者(Qualified Resident)」であることを証明しなければならないとも言えます。

適格居住者(Qualified Resident)となるための主要テスト

日米租税条約第22条は「適格居住者」と認められるための基準を定めています。日本の法人はこれらのうちいずれか一つを満たすことで、原則として条約の特典を受ける資格を得ることができます。

以下に、日本法人にとって特に重要な判定基準を整理しておきます。

  • 適格者基準:個人、政府、一定の上場会社や公益法人、年金基金、または以下の条件を共に満たす場合。
      • 1) 居住地国の適格者により支配されている法人 かつ
      • 2) 第三国への過度な所得移転がない法人
  • 能動的事業活動基準:居住地国で実質的に事業を行っており、その事業と関連する所得を得ていること。尚、相手国で得る所得がその国での事業活動に基づく場合には、居住地国で行っている事業も実質的なものである必要があります。
  • その他、当局の認定:上記①②を満たさない場合には、日米両国の当局による認定を受ければ特典の適用が可能です。

なお、以下のようなケースに該当する法人は条約特典を受けられない可能性があるため注意が必要です。

  • ペーパーカンパニー(実体のない法人):名義上は存在していても、オフィスや従業員、実際の事業活動がない法人。
  • 外国ファンド傘下の日本SPC(特別目的会社):外国の投資ファンドが投資目的で設立した、日本国内に事業実態のない会社。
  • 所得の大半を第三国に支払う構造の日本法人:日本で得た利益を、ロイヤルティやサービス料などの名目で他国へ流している構造。
  • 非公開会社で、適格者以外の外国株主が多数を占める法人:株式を公開しておらず、主要株主が条約上の「適格者」に該当しない外国法人である会社。
  • 設立間もないスタートアップで事業実態がまだない法人:まだ営業が開始されていない、売上や雇用の実績が乏しい段階の企業。
  • 海外の個人が実質支配する日本法人:法人の設立国は日本でも、資金や経営判断がすべて外国に依存しているケース。
  • 受動的投資活動しか行っていない法人:実際のサービスや製品の提供は行わず、利子・配当などの受取のみを目的とした法人。
  • 日本法人を通じて米国との取引だけを行う導管会社:実質的に米国との取引のためだけに設立され、機能やリスクを持たない法人(例:中間持株会社)。

なお、上記のような特殊なケースを除けば、通常の日本法人はLOB条項を満たす(= 日米租税条約の適用を受けられる)と考えて差し支えないと思います。実務上は「こうした基準も存在する」とだけ理解いただければ良いかと思います。

4. 日米租税条約の適用に向けて準備すべき書類と手続き

このセクションでは、日米租税条約を適用するために「準備すべき書類」と「具体的な手続き」について、日本の法人が直面する典型的なケースを想定してご紹介します。具体的には、日本法人が米国子会社に資金を貸し付け、日本法人がその利息を受け取るという代表的なケースについて、必要となる書類および手続きは以下のとおりです。

  1. Form W-8BEN-E(日本法人が作成・米国子会社サイドで保管)
    日本の親会社が「外国法人であること」および「日米租税条約による免税の適格者であること」を証明するための届出書です。米国子会社は、このフォームを利息の支払日までに受領・保管しておく必要があります。IRSへの提出義務はありませんが、税務調査時に提示を求められるため、正確かつ紛失のないよう保管が必要です。
  2. Form 1042-S(米国子会社が作成・IRSに提出)
    源泉徴収の有無にかかわらず、外国法人に対する支払いを行った事実は報告義務の対象となります。したがって、租税条約により源泉税が0%であっても、米国子会社はこのフォームを用いて支払い内容をIRSに報告する必要があります。
  3. Form 1042(米国子会社が作成・IRSに提出)
    Form 1042-Sで報告した支払い情報を集計し、源泉税に関する年間の総括を報告するための書類です。源泉徴収額がゼロであっても提出義務があり、IRSはこのForm 1042と1042-Sを照合して整合性を確認します。
  4. Form SS-4(該当する場合のみ、日本法人がIRSへ申請)
    日本法人が米国の納税者番号(EIN)を保有していない場合に、EINを取得するための申請書です。W-8BEN-Eの記入欄にEINが必要となるため、結果的に条約適用の大前提としてこの取得が必須となるケースが多くあります。発行までに数週間程度かかることがあるため、早めの対応が重要です。

日米租税条約の適用を受けるには適切なフォームの準備と事前手続きが重要になります。初めて租税条約の適用を行う場合には不明点も多いかと思いますが、今回ご紹介したポイントを押さえておけば大きな抜け漏れは防げるはずです。

以下の記事でより詳細に解説していますので、ご参考になれば幸いです。

まとめ

この記事では、日米租税条約による利子・配当・使用料それぞれの具体的な軽減税率と条約特典を受けるための要件、条約適用のために準備すべき書類と手続きについて解説してきました。

以下に、この記事のポイントを整理しておきます。

  • 米国法人から受け取る利子・配当・使用料には原則として30%の源泉税が課されるが、日米租税条約を活用することで大幅に軽減できる
  • 利子・使用料は原則免税(0%)、配当は株式保有割合に応じて0%・5%・10%の段階的税率が適用される(2019年改正議定書以降)
  • 条約特典は自動適用されないため、LOB条項(適格居住者テスト)を満たした上でForm W-8BEN-Eなどの書類を能動的に準備・提出する必要がある

この記事が、米国との取引における源泉税にお悩みの方の助けになれば幸いです。

アメリカの会計士

出身:愛知県 所属会計事務所:日系会計事務所(ニューヨーク・ロサンゼルスにオフィスがございます) 米国公認会計士として、アメリカ現地で日系企業や個人事業主のバックオフィス支援に携わっています。あわせてAIによるデータ分析の修士号を持っており、日々の実務でもAIを最大限に活用しながら、「AIに任せられる部分は任せ、最後の砦は人が担う」という進め方を大切にしています。 アメリカでの起業や会社運営には、日本では聞き慣れない専門用語が多く、特に会計士や税理士の業務は「何をしているのか分かりにくい」領域だと感じています。ご相談をお受けする際には、なるべく難解な言葉を使わず、次に何をすればよいかが明確になるご説明を心がけています。皆様の不安や負担を少しでも軽くし、本業に安心して集中していただける体制づくりに貢献できればと思っております。 会計士や税理士に相談するのは少しハードルが高い——そう感じる方もいらっしゃるかもしれません。そのような方は、まずはこのサイトをご覧いただき、私や会計・税務、そしてAIの実務への活用を、少し身近に感じていただければ嬉しく思います。 アメリカでの経理や確定申告、バックオフィスまわりへのAI活用など、些細なことでもお気軽にお問い合わせください。

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